No.1510。 (ページ11)

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隆二さんが指差した先には“迎車”という文字を赤く光らせたタクシーが１台。

「あの……私……」

────乗るわけにはいきません。
────私は、あなたのお客さんだから。

「どこまで乗るんすか？」

「あの……」

目の縁が微かに赤い隆二さんには、私の戸惑いが伝わっていない。

「あの、隆二……さん」

消え入りそうな声で、私は彼の名前を、彼に向かって呼び掛けた。

「私、関係者とかじゃ」

「２日間、お疲れさまでした」

「え？」

「お世話になったお礼に乗ってって下さい」

“どうぞどうぞ”と言うように笑いながら手を差し出し、隆二さんは私をタクシーへと案内した。

“どうしよう”と目を泳がせた私だったけど、よく考えてみたら……タクシーに同乗するだけじゃないか。

目的地に着けば“さようなら”と言って、もう二度と会うこともない。

私がファンなのか関係者なのか、それは永久に知られることのない事実。

私は一人“ふんっ”と鼻息荒く頷いてタクシーに乗り込んだ。

「よいしょ」

すぐに、隆二さんが隣に乗ってきた。

二人の距離、15cm。

隆二さんから甘さと爽やかさと、お酒の匂いの混じった香りがしてる。

私が蚊なら、間違いなくフラフラと寄っていくような香り。

「どこまでっすか？」

嗅覚に全神経を集中させていた私は、隆二さんに問い掛けられて一瞬口ごもった。

「えっと……あの、──ホテルまで」

「え？」

隆二さんが驚いた顔で私を見ている。

さっきまで唄っていた人が、私を見ている────。

これは、ただ事じゃない。

でも、事態はもっとただ事ではなくなる。

「俺らが泊まってるホテルと一緒だ」

「え！？」

「すごい偶然じゃないですか？」

これは、本当に、凄い偶然。

「出しますね」

メーターを上げたタクシーが、ゆっくりと動き出した。

私は薄く唇を開いて、目をパチパチさせながらこの状況を理解しようと一生懸命だった。