この世界での犯罪者様__ ページ11
「どこまで判ってるって……」
眉を下げながら言うと、乱歩さんは口の端を僅かに上げた。
跡形も無さ過ぎて逆に恐ろしい乱歩さんの挙動は実にしなやかだ。美しすぎる動作が私にとって逆に不自然。
「君は判って要る筈だよ。僕にすら見えない、先々まで鮮明に」
「乱歩さん以上の人間なんて居る筈が……」
「……残念ながらいるんだよ。それが君だ」
私の耳は乱歩さんの言葉を受け入れた。いや、乱歩さんが受け入れるようにしているんだ。雰囲気と言葉選びが私の脳に合わせてきている。だから嫌でも乱歩さんの言葉は私の中に入ってくる。
全ては乱歩さんの手の平の上。逃れる事なんて絶対に許されない。そう肌で感じた。
「僕の異能は確かに強力だ。世界最高だ。誰よりも凄い。でも僕は起こった事件を裁き、解決することは出来てもこれから起こる事件を『全て』無くすことはできない。何故なら見る事は出来ても、見ようと思うようなアクションが無いから」
乱歩さんの無機質な目は私を確かにとらえている。全てを見透かしていそうな瞳が私を刺した。細部まで覗きこんだ筈なののに、あえて乱歩さんはそれを指摘しない。
その他人行儀な感覚が、親身になりすぎない表情が、嘘で塗り固めている私の心に溶けていく。温度の感じられない雰囲気が、酷く心地いい。心地よくさせている。
(だから拒めない。乱歩さんは、私が好きだと、少なからず好意があると判っているから)
「……この先の展開は、大体」
「そっか」
脳髄まで声が響いたかと思えば、口が緩んだように開き、言葉が押し掛けるように出てきた。
乱歩さんはにっこり笑った。真意の見えない表情は、まさに悪魔。この世界を取り仕切る悪魔。全てを見透かす者。
どう足掻いたって、彼には敵わない。
衝動的に、右手で左手のパーカーの手首の部分をそっと撫でる。
満たされていく感覚がこの上なく気持ち良い。ずっと溺れて居たい。なんて、ドラマチックなことを考えてもいいだろうか。穴の開いた私の心に、乱歩さんの『征服欲』を注ぎ込んで欲しい。
最推しではない。しかし私は彼が大好きだ。このまま、この感情を愛と勘違いしたまま。
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作者名:赤菊 藍 | 作成日時:2017年9月19日 17時