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髪を洗ってもらって、優しく乾かして貰った後消毒液を持った彼が怖々と身体の傷に触れる。
「いっ、、、」
「ごめん、痛いな」
「大丈夫。こっちこそごめんね」
気を遣わせるから絶対に痛くても声を出さないでおこうと思っていたのに、お湯では慣れてくれなかった深い傷に消毒液は沁みて殺したはずの声は放たれてしまった。
歪んだ彼の顔を見るのが辛い。
「ちょっと我慢出来る?」
手当を始めたばかりで痛みが強そうな傷はまだ多い。
なるべく優しく触れようとしてくれている彼の手の強さに申し訳なく思う。
大丈夫と頷くと手を握って手首の傷に消毒液を染み込ませた綿が当てられる。
綺麗に治るように頑張ろうねと手際良く動かされる手。
(痛い...)
我慢しないと。
これ以上悲しそうな顔をする彼を見たくない。
これが終わればもうすぐ終わる、と何度も言い聞かせて唇を噛んでいると顎を掬われ唇が触れた。
「痛いの、我慢せんといて」
「え?」
「痛い時は痛いって、辛い時は辛いって言うて。痛くないわけないやん?」
「、、、うん」
「痛いって言うても、これは終わるまでやめてあげられへんのやけどなぁ」
でも、大丈夫って我慢せんといてともう一度唇が重なる。
「センラ」
「なぁに」
「、、、痛い」
「うん」
「ここも、身体の痣も、全部痛い」
「痛いなぁ」
一度口に出すと止まらなくなってしまった。
ぽろぽろと想いを零していく度に、涙まで零れそうになってきて込み上げる気持ちに素直になろうと止める事をしなかった。
素直になった私に彼は頷いて涙を拭っていく。
「治るかなぁ?」
痕が残ったらどうしよう。
傷を見る度思い出すなんて嫌だ。
死ぬまで、この事を思い出す日が繰り返されるなんて耐えられない。
「治すよ」
だから頑張ろうねと再び消毒液が握られる。
うん、と頷くと瞬きをすれば零れ落ちそうな涙を拭って笑ってくれた。
「ええ子やね」
髪を撫でる大きな手に、拭ってくれた涙のすぐ後にまた新しく零れていく雫。
あの部屋でいい子を自分勝手に押し付けた高瀬さんとは違う意味の言葉。
いつも彼は、私が頑張ると褒めてくれる。
それは誰の為でもない。
彼の為でもなく、自分の為に頑張る時。
「頑張る」
「ん、えらい。ほな始めるよ?」
もう一度頷くと傷に触れていく消毒液は素直に痛いと言うと頑張れと励ましてくれる彼のお陰かさっきより痛くない気がした。
全て終わると、我慢出来て偉かったねと撫でてくれる手が気持ち良かった。
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あーりん(プロフ) - 神楽さん» ありがとうございます( ; _ ; )元の甘々要素に戻したくてふんだんに取り入れていこうとしてます、、、w甘々になってるのか?と自問自答付きですがw (2019年9月21日 2時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
神楽 - 甘々ですな...。最高ですな.........。(語彙力低下中) (2019年9月20日 16時) (レス) id: 007b538a5a (このIDを非表示/違反報告)
あーりん(プロフ) - 無為さん» コメントありがとうございます!離れてさせていた分これからは暫くは穏やかな2人をお送りできればなーと思っております!更新頑張ります! (2019年9月16日 2時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
あーりん(プロフ) - 珠菜さん» ありがとうございますー!長いだけのお話なのに一気読みありがとうございます、お疲れ様でした( ; _ ; )これからも楽しんで頂けるように頑張ります! (2019年9月16日 2時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
あーりん(プロフ) - ゆうさん» 楽しみにして頂けていて嬉しいです( ; _ ; )!ハラハラしてもらうのが目的だったのでゆう様にそう言って頂けて、伝わってるんだなと安心出来ました!w (2019年9月16日 2時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あーりん | 作成日時:2019年8月28日 7時