『Ｗ』

°91° ページ42

世の中には“美徳”と呼ばれるものがある。道にかなった行い、それに沿って行動するだけで“正しい”という称号が得られる




言ってしまえばそれは正義だ



世の中には、たくさんの美徳がある


周りの人間を大事にする、どんなことにも手を抜かない、仲間を信じるー



数えきれないほどの“美徳”は選択のたびにその圧倒的な正義を振りかざして襲ってくる



それに忠実に道を外れることなく手順を踏めば正しい人間の出来上がりだ


オレはそんなものに忠実に従うつもりはない。そんなことをしたら世間に飼い殺されるようなものだ




オレが従うのは常に自分だった


この胸に抱く感情をなにより優先してきた





ー悔いが残らない方を自分で選べ




ところが、今はどうだ


喉が焼けつくように痛む




後方の名前も知らない誰かがオレの為にその身を捨てた

周りの見知った顔の仲間たちはオレの為にその心を捨てた



分からない




「エレン」


隣から掠れた声が聞こえた




横を向く


その顔を見た瞬間、次に言われる言葉がなんなのかが分かった


そしてそれがオレにとってどんな言葉なのかも



信じることは美しくて、尊くて、正しかった



そう、正しかったんだ


オレは正しいという称号が欲しかった





断片的な赤い記憶がオレを取り巻く

バケモノと呼ばれ、身体が熱くて、ミカサの頬には深い傷がある




“正しい”が欲しくて欲しくて、その気持ちに従いたかった



たとえ、それが“美徳に従う”という気持ちでも。



“正しい”という何よりも強い味方が欲しかった

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