『Ｗ』

°78° ページ29

そのあとはキッカリ104期生とは別行動になってしまい、Aやミカサ、アルミンに会いに行くだけの暇もなく気が付いたら壁外調査が目前に迫っていた




壁外調査がどれだけ危険なのかは子供の頃から口を酸っぱくして言われてきたし、訓練兵時代にその手の話は嫌という程耳に入ってきた


巨人とやりあって一度足を噛み切られて死にかけたこともあるし、仲間が喰われた姿も見た



母さんの無残な最期は今でも瞼の裏に焼き付いている




それでも、何故だろう






壁外調査に行って、自分が死ぬ痛みや仲間が喰われる姿を想像してもいまいちピンとこない




その光景を鮮明に思い浮かべてみても、どこか自分を怖がらせる為の虚像になってしまう



小さい頃、家の壁の模様にありもしない妄想を膨らませて、夜眠れなくなるくらいにドキドキしたような、そんな気分だ




こんな気持ちで調査に臨むことが危険であることは分かっているが、それもどこか遠い世界の話に思えてならない




「平和ボケ‥‥‥ってやつか」




天井に向かって独り言をかまし、顔を顰める



オレはそんなまやかしには惑わされないと思っていたのに、いつのまにこんなことになったのだろう



すっかり染まってしまった



‥‥幸せ、だったからだろうか




他愛もないあの日常が、泥まみれ汗まみれのあの訓練が




オレにとってはかけがえのない幸せだったのだろうか




不意に怖くなった





『日常とは突然に、なんの前触れもなく、かつ理不尽に奪われるものである。』





この言葉は誰のものだったっけ

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