『Ｗ』

°72° ページ23

なんだか安心して、少し微笑んだら頬に鈍い痛みが走った



痛い



僅かに湧き上がってきた安堵感が急速に引っ込んで行く


鼻や口からは未だに血がダラダラと流れている



これ、ヤバくないか？


血、出すぎじゃねえか？



試しに顔を固定してみると、見る間に床に血溜まりができた





ヤバイって



誰がハンカチくれよ


このままじゃ死んじまう



まあ、例えハンカチをこの会場にいる人全員からもらったとしても手を使えないオレにはどうしようもないのだが




そんなことを思っていたら、誰かの手がオレの顎を持ち上げて何かに乗せた



硬くて軽く凹んでいるものだ



続いて細い指が鼻と口にハンカチをあてがう



ありがとう、と軽く微笑み、激痛にまた顔をしかめる



ハンカチを当ててくれたその人物に焦点を合わせると、いつも通りの冷めた顔をしたAがいた




「大丈夫？

変な顔になってるよ」



相変わらずというべきか、酷い言い回しだ



なりたくてなってるわけじゃねえよ、という意味を込めて下唇を舌で押し出した




「それと、これ後で返してよね」



オレの顎の下に置いてある何かを軽く揺する


了解、と瞬きをする




「あと、これどうする？戻す？」




オレの周囲の血溜まりと歯を指差す




戻す？眉をひそめると、冗談よ、と唇の端を吊り上げて笑った




「エレンの血塗れのハンカチなんて使いたくないからそれは捨てちゃっていいよ」





お前ハンカチ使わない主義だろ、と目で訴えると、時と場合に応じて使う、と言われた

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