△ 憎さあまって愛しさ百倍 ページ20
もう水分は出尽くして枯れたはずなのに、まだまだ泣ける。ひとって面倒くさいのね。じんじんと痺れる頭で、夜の街を急ぎ歩く。なんで追いかけて来ないのよ、善逸の分際で。わたしほどきみをちゃんと愛してくれる女なんて、そういないよ。
いい?善くん。今わたしみたいないい女を手離したらきっと後悔するんだから。後悔しろ。
△
数日前にわたしと善逸はささいなことから大きなケンカをした。目の前の相手がどうしようもなく憎くて、持ちうる言葉余すことなく使って傷つけてやろうと躍起になった。「きらい、きらい、」善逸は枕を投げつけてきた。一点してそれしか言わなくなって、まるで叱られた子どもみたいだった。壁にもたれたまま、膝に顔をうずめて、くぐもった声で繰り返す。愛しさ余って憎さ百倍。
「きらい、すごくきらい、嘘じゃないもん、お前のことなんか、だいきらい」
ドラマで見たことある、と思った。恋仲にあった女のひとが男のひとに振られて泣き崩れるシーン。
バカバカしいと笑っていたそれが今、目の前で起こっていて、しかも相手はわたしで、指先がふるえてた。俺はAちゃんのことを、こんなにも、こんなにこんなにたいせつに想っていてあげたのに。許さない。そんな風に琥珀に睨まれて、胸がずきずきと悲鳴を上げていた。
そうして強がりなわたしたちはじいちゃんに心配されても、かたくなに謝ろうとはしなかった。大切がすぎて、いつどう謝ればいいのかわからなかった。
「善逸」声がした。甘ったるくて媚びを売るような、ぬるりとまとわりつきそうな。ふりむくと善逸が知らない女の子を連れて甘味処から出てくるところで、殴られたみたいなショックを受けた。
気持ちの重心の置き場がない。何か言わなきゃ、と口が開いた。でも何を言えばいいのかわからなくてぐらぐらする。ぐらぐらぐらぐら。
「………Aちゃん?」
ばかな男がわたしに気づいて寄ってくる。やめて。いまのアンタ、臭い。香水臭い。胸がどうしようもなく痛くて、わたしを苦しめる張本人に助けを乞いたかった。
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あき - うわぁ、HUNTERHUNTERも書いてくれるなんて……🥹🥹 (2023年1月30日 14時) (レス) @page50 id: 099b645bba (このIDを非表示/違反報告)
まっひぃ - 善逸のそういう所好きだぁー!😁かわええ (2021年11月11日 15時) (レス) @page48 id: d24aae8d9d (このIDを非表示/違反報告)
ひとみちゃんDX(プロフ) - 今まで読んだ中で一番好き! (2021年10月29日 12時) (レス) id: 0e9cb43b28 (このIDを非表示/違反報告)
くるみ割り人形 - わあわあ好きだあ途中どうなったのってなったけどちゃんとハピエンで良かったああうわん嬉しすぎて嬉し涙が…というかヒロ◯カの小説も書いていらっしゃるなんて!今すぐ読んできます!あ、この作品めっちゃ良かったです!好きです!(唐突の告白 (2021年9月12日 7時) (レス) id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 sud .(プロフ) - とっても素敵でした。 (2021年9月9日 15時) (レス) id: a463316156 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2019年10月4日 22時