お誘い ページ25
やっと決まった就職を報告すると、嬉しそうな母親の顔が浮かんだ。
『一度、顔見せなさいよ』そう言って切れた電話は、まだまだ長い夏休みの予定をひとつ埋めて、少しずつ、自分が大人になっていく感覚になった。
とはいえ、就職活動という重圧から解放された今、なかなか実家に帰る気分にもなれず、学生生活最後の夏休みを満喫することにすべての時間を使っていた。
お盆前に、佐知とバーゲンをめぐる約束をして、朝から掘り出し物を見つけるべく歩き回って、疲れ果てた夕方、駅前のカフェで一息つきながら、互いの戦利品を報告しあっていた時だった。
「あ、拓海だ。」
テーブルに置いてあった佐知の携帯が鳴って、表示された『拓海』の文字。
「もしもーし。おつかれー。」
ゆるく話し出した佐知が、チラリと私を見る。
買ったものを出来るだけまとめようと、大きめのショップの袋に、小さなものをまとめていると、目の前に佐知の手がヒラヒラと現れる。
「何?」
「ちょっとまって。」
携帯の向こうの拓海を待たせ、私に顔を向けた佐知が、当たり前みたいに言った。
「拓海がご飯食べようって。いいよね?」
夏の日は長くて、まだまだ余裕があると思っていた時間は、時計を見れば、18時近かった。
「いいよ。どこ?」
私の質問には答えず、佐知は、拓海との会話に戻ってしまった。
一人暮らしのいいところは、こういう時、家で用意されているかもしれない食事も、帰る時間も気にしなくていいところ。
「オッケー。じゃ、あとでー。」
携帯を閉じた佐知が、そのまま身支度を始める。
「どこ?」
「Pinocchio。」
「いつもと同じじゃん!」
薄々気づいてはいたけれど、結局、最後に落ち着くのはいつもの場所。
「行こー。」
さっさと荷物をまとめて、残っていたアイスモカラテを一気に飲んだ佐知が立ち上がる。
「まってまって。」
慌てて同じようにストローで吸い上げたカフェラテは、だいぶ溶けた氷のせいで薄くなっていた。
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植尾あい(プロフ) - ふじのんさん» ウフフ 友達2人についても気になっちゃうあたり、マニアックですよ!(笑)でも、その期待を裏切らずに、友達も含めて、この先の展開を楽しみにしていて下さい!二階堂くんの不器用な優しさとか愛情表現、キュンとしてもらえたら嬉しいです。 (2018年2月10日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - にかはるかさん» 不器用な2人の想いがもどかしくて、切なくて、書いてるはずの私もソワソワしちゃいますが、2人の幸せを願いながら、続きを書こうと思います!文章が素敵だなんて、褒めてもらえて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年2月10日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ふじのん(プロフ) - あいさん、こちらの小説では恐らく初めましてです!雑誌を広げて文字を書いたニカちゃん。この時点で「アレしかなおよな?」と予想はしていましたが、とどめの「またなっ○○」がズッキューンときました!2人はもちろんですが、友達2人もどうなるのか気になります(^^) (2018年1月6日 22時) (レス) id: fe899e2f87 (このIDを非表示/違反報告)
にかはるか(プロフ) - 植尾あいさん» ニカちゃんの声で心に響いています!自分の気持ちに気づいた主人公ちゃんと、不器用なニカちゃんがどうなるのか、とても楽しみです!文章もとっても素敵です! (2018年1月5日 23時) (レス) id: 3dfef49e61 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - にかはるかさん» 二階堂くんの声で脳内再生されてますか?!よかったー。若い頃の二階堂くんをリアルタイムで知らないので、完全な妄想で仕上がっているので少々心配だったのですが、よかったー!のんびり更新ですが楽しみにお待ちくださいね! (2018年1月5日 18時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2017年7月18日 0時