１：ｎの恋愛構図

さくら《 after story of キミ声》1 ページ36

「今日ね、早起きして、いつもより早い電車に乗ったの。」


ニカと迎える２度目の春。


「仕事、忙しいの？」


深夜に帰宅したニカに、軽い食事を用意しながら、キッチンから今日あったことを話す。

相変わらず、私のお気に入りクッションには、ニカが我が物顔で座って、もう、ニカの形になっちゃいそうな程馴染んでる。


「暇ではないけど、忙しくもないよ。」


私の話を聞きながら、ドライヤーをかけていたニカの髪は、出会った頃より明るい茶色。

『ヤンキーみたい』って、言ったら、『個性！』って言われたのは、いつだったかな。

ニカのいる毎日が、私の日常になって、日々、ささやかな幸せを生んでいく。


「会社の最寄り駅の一つ前で降りるとね、川沿いに桜が満開で、ずっとね、その下を歩いてみたかったの。」


リビングとキッチンの距離で、顔を合わせて話すのは、私の日常がほとんど。

やっぱり、まだ、ニカに自分のワガママをぶつけるのは苦手で、離れたくない朝も、会いたい夜も、素直に言えないことが多い。

でも、こうやって、時々、突然に私の部屋に帰ってくるニカは、やっぱり、私の優秀なペット。

寂しい時には、いつだって先回りして『会いたかったでしょ？』って、帰ってきてくれる。


「もう、何年も通ってて、何回も桜の季節を通り過ぎたのに、いつも電車の中から『キレイだなー』って、見てるだけだったから。」


出来上がった野菜多めのスープパスタをトレーに乗せて、クッションに埋もれるニカの前に差し出すと『うまそう！』って、目を細めて、トレーごと受け取ってくれる。


「いただきます。」


姿勢を正して、真っ直ぐに伸ばした指先を揃えるように、両手を合わせてそう言うニカの横顔に『召し上がれ』って、応える。

私がニカの左側に座ったから、ニカは、右手でフォークを掴んで、そのまま、パスタを食べ始める。

こういう優しさが、ニカの好きなところ。


「電車の中からも、充分キレイだし。朝は、忙しいし。帰りは、寒いし。って、自分で何だかんだ理由つけて、毎年遠くから見てるだけで満足しようとしてたけど……。」


今朝見た桜の花を思い出す。

薄い桜色の雪みたいに、ふわりと枝先に咲き誇る桜。

その隙間から見える青い空。

桜の花の向こうに見えた、高架を走る電車は、思っていたよりもずっと遠くて、自分が乗るはずだった電車は、あまりにも短い一瞬で通り過ぎていった。

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