ソレ ページ29
下準備がすっかり終わると、丁度よく真紀から連絡が入った。
― 今、駅に着いたよ〜。
― 了解でーす。
返信すると、テーブルの準備に取りかかる。
天気もいいし、リビングの陽当たりもいい。
「そうだっ!」
我ながらの名案にパンっと手を打つと、リビングの小さめのローテーブルを片付ける。
そして、サービスルームの前に立った。
もう、だいぶ開けていないこのドア。
開けないように、見ないようにしてきたこの部屋。
きっと、今日が開けるタイミング。
真紀がくれた勇気。
私の中の新しい恋。
そう、今開けないと、一生開けられない。
ドアノブに手をかけると一気に開いた。
小さめの窓から差し込む光が、
狭い部屋の半分を占めるように置かれたソレを照らす。
今もなお、私の心の解放してはくれない、
ビニールのかかったままの、
真新しい
ソファ
胸の奥がキュッっ泣き声を上げて痛んだ。
この部屋で新生活を始めると決めた時、二人で買いに行ったソファ。
リビングの一番日の当たる場所に置くつもりだった。
この部屋の日だまりになるはずだった。
たくさんの思い出を作るはずだった。
芝生みたいな、柔らかい緑色にこだわって、特別に注文した生地で作ってもらった。
でも、完成したソファが届いた時、
私たちは、
壊れていた。
このソファが日だまりになることは、なくなっていた。
「……… ごめんね。」
まだ、触れる気にはなれないソファに、小さく謝って、一緒に片付けてあった折り畳み式の木製のローテーブルを運び出した。
――― パタン
サービスルームのドアを閉めると、そのままドアに寄りかかる。
自分の鼓動が耳の奥で聞こえる。
「……… ダイジョウブ。」
呟いて、心を整える。
もう、『あの日』は、来ない。
振り向かずにリビングへ戻るとタイミングよくインターフォンが鳴った。
「いらっしゃい!上がってきてー。」
「お待たせ〜!」
インターフォンの画面には、エントランスで手を振る真紀が映っていた。
解錠ボタンを押すと真紀がエントランス扉を入るのを確認して、テーブルの準備を再開した。
――― ピンポーン
折り畳み式のテーブルを広げたところで、インターフォンが鳴った。
「早っ!はいはーい。」
バタバタと玄関に向かいドアを開けると、そこに立っていたのは、
親友ではなく、
『隣の犬』だった。
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植尾あい(プロフ) - ちいさん» 生き甲斐だなんてっ!感激です。『欲張り』のあのシーンは、書き始めた時から、絶対に書く!と、決まってたシーンなので気に入って貰えて嬉しいです!仔犬感と大人感のバランス、うまくとりながら、日々、妄想に励みますっ(笑) (2015年3月2日 11時) (レス) id: dd156b7728 (このIDを非表示/違反報告)
ちい(プロフ) - 作者様の作品を読むのが最近わたしの生き甲斐レベルです( ; ; )もう仔犬なのか立派な男なのかわからない魅力的すぎる隣人ニカちゃんに毎日萌えています//私も欲張りのあのシーンたまらなく好きです!溢れ出す妄想、これからも楽しみに読ませていただきますね! (2015年3月2日 2時) (レス) id: 7ce2ec877c (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - aiMyuさん» 通勤のお供になれて光栄です!私的に朝が都合よくて、朝更新してますが…そうですか、不審者(笑)これは、大人な展開は、避けた方がよさそうですね。朝からねぇフフッ。帰宅後に読み返して貰えるなんて!ありがとう。これからもよろしくお願いします! (2015年2月26日 20時) (レス) id: dd156b7728 (このIDを非表示/違反報告)
aiMyu(プロフ) - コメ返しwwあの、あいさんて朝更新してるじゃないですか?私、通勤中に読むんですよね。毎朝、電車内でフゥーって息吐きながら、ニヤニヤしちゃって…私、完全に不審者ですwwそして帰宅してから読み返す♪♪本当に尊敬してます☆ (2015年2月26日 15時) (レス) id: 81939e753e (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - キスマイさん» ハイハイ♪いらっしゃーい(笑)自分でももどかしくなりながら書いてます。でも、皆さんにキュンしてもらえて頑張れます!仕事バラしはねぇ……ウフフ…お楽しみに♪いつでもお喋りしに来て下さいね♪お待ちしてまーす。 (2015年2月26日 8時) (レス) id: dd156b7728 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年1月19日 8時