42 ページ42
でもその手がAちゃんに届くことはなかった。
俺の足の上に今まで大人しく座っていたバンビが、キャウンっと甲高い声を張り上げ、俺はその突然の声にびっくりして、座っていたソファーから転がり落ちた。
その衝撃でバンビは吹き飛ぶわ、隣で寝ていたAちゃんは吹き飛ぶわで大惨事となったことは明白だ。
「え？！な、何？！どうしたの？！地震？！」
ジント「ご、ごめん…Aちゃん…起こしちゃった…？」
「え？ジ、ジント君？何やってんの、そんなとこでひっくり返って…」
ジント「あ、いや…。柔軟…体操…？」
凄まじい苦し紛れの言い訳だった。
だけど、バンビには感謝しないと。
あのままだったら、俺、何してたか、分からないな…。
本当に俺、どうしちゃったんだ…？
碌に記憶もないくせに、一体考えてんだ…。
そんな俺の顔は、まだ熱をもって熱いままだった。
―
「じゃあ今日もお留守番よろしくね！行ってきます！」
そう言って、Aちゃんは今朝も仕事へと赴いて行った。
昨晩、あの映画を見終わってからというもの、俺は結局全然寝付けず、今なお胸の鼓動が収まってない。
俺の右肩に、Aちゃんの頭の感触が残ってる。
そして、昨日の場面を思い出すだけで、また変な気持ちになってくる。
一体この気持ち、何なんだ…。
俺は今朝Aちゃんと食べた朝食の片づけもままならないまま、ぼんやりとキッチンの流しの前で立っていた。
そんな俺を見かねたのか、バンビが俺の足元へやってきて、体をすりすりとこすりつけてくる。
ジント「何だよバンビ…。俺をからかってるの？」
そんな俺の言葉は通じるはずもなく、バンビはひとしきり俺の足とじゃれ合うと、別の遊び道具を探してどこかへ行ってしまった。
この家に来てからかれこれ一か月は経とうとしているけれど、俺の記憶は全然戻らないし、Aちゃんに迷惑ばかりかけている。
彼女は、今俺の事どう思ってるんだろう。
最近は仲良くしゃべったり、ご飯食べたり、たまの休日は外に買い物なんかも行くけれど、本当はどうなんだろう。
邪魔に思ったりしてないかな…。
「はぁ…」と、深いため息を漏らした俺は、洗い物を後回しにして、昨日Aちゃんと一緒に座って映画を見ていたソファーの上に寝転がると、再び昨晩の事を思い返していた。
でももしも俺の記憶が戻ったら、もうAちゃんと一緒に生活できなくなるのかな…
なんか、やだな…
って、やっぱり俺おかしいよな…。
はぁ…
―
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 65人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月17日 15時
