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暗い記憶の奥底で、俺は絡まる足を必死に動かして、走る。
走る。
ただ走る。
何でこんなに走ってるんだ。
息を切らし、必死に、必死に。
まるで、何かから逃げるように、俺はただ走っているのだ。
理由もわからず、ただ走っている映像が流れ続け、やがて、ピンポーンとインターフォンの音色が俺を呼んでいるような気がした。
ん？
ぼんやりとした意識の中で、またピンポーンという音が聞こえ、俺は瞼をこじ開けた。
あれ？
俺、いつの間にか寝ちゃってたのか…。
気が付くと、俺はソファの上で寝ていたようで、時計を確認すると、すでに夕刻。
何時間寝てしまったんだ…？
俺のそんな疑問を無視して、ピンポーンというインターフォンの音が再び聞こえる。
誰だ？
このマンションに来てから、来客なんて初めてだ。
まぁ、今はAちゃんもいないし、勝手に出るのも失礼だと思い、俺はソファから降りて、部屋の中にあるフォンモニターで外の様子を確認してみた。
よほど玄関の扉に張り付いているのか、誰かの背中しか見えないが、まだその誰かがドアの外にいるようだ。
ピンポーン。
ピンピンピンポーン。
ピンピピピンピピピンピピンポーン。
頭がおかしくなりそうな程、リズミカルにインターフォンを鳴らす謎の誰か。
その誰かは何と、玄関のドアをノックまで始めた。
「おーいAちゃーん？！おらんのー？！もしかしてまだ寝てるんかー？！」
すると、ドアの向こうの誰かはそう叫びながら何度もドアをドンドンとノックを続ける。
何て不躾な人なんだ。
そう思ったが、どうやらAちゃんの知り合いの様だ。
しかも男。
俺はそれが分かった瞬間、なぜだか少しムカついてしまった。
Aちゃんに一体何のようだ…？
足音をひそめ、抜き足差し足で玄関の方へ向かうと、ドアの覗き穴を覗き込んでみた。
すると、そこには細身の男が首をかしげながらドアを叩いているのが見えた。
「おーい！開けてやー！Aちゃーん！」
覗き穴越しだから分かりにくいけれど、結構若そうに見える。
ま、まさか…Aちゃんの彼氏…とか…？
そう考えると、まるで心臓を鷲掴みにされたような痛みが走り、俺は息をのんだ。
な、何でこんなに痛いんだ…。
何でこんなに苦しいんだ…？
Aちゃんに彼氏がいたって、別に構わないじゃないか…。
俺は彼氏でも何でもないわけだし、お世話になってる身だし、居候なわけだし…。
っていうか俺、何こんなに焦ってるんだ…。
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月17日 15時
