第一話 汽車 ページ3
人間は生まれながらにして、使命を与えられている。若かりし男女は、産まれたばかりの赤子に向かって、呪いの言葉を捧げる。
お前は"こうあるべき"という、概念を。
「A」
騒々しい声が飛び交う焦げ茶色の柱の前で、僕は父様に返事を返す。心配そうに僕の顔色を窺う父様に、微笑み向き合う。
いけない。完全にぼぅ、としていた。
僕は今年、魔法を学ぶためホグワーツに入学する。
行く前からこれでは、随分と情けない。
「寮はスリザリンに入りなさい。いいね？」
「はい」
ああ、またこれだ。
僕の家系は必ず、スリザリンだったらしい。父様は自尊心が高くマグル生まれの人間が嫌いで、穢れた血に関わるなと毎日こうして口をすっぱくして言っている。
マグル生まれでも優れた魔法使いはいるし、嫌う理由はあまり無いと思うのだが。
「そろそろ行きます」
「元気で過ごすのよ、A」
ふわり、と柔らかな髪が頬を撫でた。
僕を抱きしめたまま離さない腕を優しく離すと、母様は名残惜しそうな顔で僕を見つめてくる。
「母様もお元気で」
だけど、これでは何時までも汽車に乗れない。二人に軽く手を振ると、僕は汽車に乗り込んだ。
「はぁ」
だが現状は、どこのコンパートメントも既に埋まっていて小さな溜息を吐く。しかし、しばらく通路を歩いていると二人しかいない場所を見つけた。
「ここ、座ってもいいかな？」
「もちろん」
よかった、と内心安堵する。これで駄目だと言われたら、僕はずっと通路でホグワーツに着くのを待つことになっただろう。
「ありがとう、僕はA・アーカーシャ。名前で呼んでくれると嬉しい」
「うん、そうする。僕はハリー。よろしく！」
「……ハリー？」
家で何度も読んだ本に出てくる名前を言った、目の前の男の子をジッと見つめる。薄いガラス越しから彼の綺麗な緑の瞳が窺えて、暫く見つめていたらこちらに視線が向いて急いで逸らす。
―――この子がハリーなんだ。
「僕はロン。――って、君アーカーシャって言った！？」
ハリーの他に座っていた赤毛の男の子が、自己紹介をするなり突然大きな声で叫ぶ。
「やっぱりさ、スリザリンがいいの？」
「いいや。僕はどこの寮でもいいかな」
ロンの質問に答え、窓の外に顔を向ける。血筋に関することはあまり好きじゃない。近付いて来る者は血筋だけで、僕自身を見ようとしない。
否定されているようで、苦痛だった。
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作者名：空天 馬
| 作成日時：2016年6月11日 1時
