2.「泣きっ面に蜂」 ページ4
彼女の向かった先は、大きな廃校だった。
不思議だ、こんなところに未練なんてあるのだろうか。
ふと、女が止まった。
「……いい加減にして、貴女は誰なの?!」
ふと、ぐるりとこちらを向かれ、気力ひとつでわたしは弾き飛ばされてしまった。
彼女の目は憎悪に満ちていて、私のことを敵だと見做しているらしい。
「……、私はA。……あなたと同じで、しがない亡者です。」
私が亡者であることを知ると、安堵したかのように溜息をつき、こちらへ近寄ってきた。
そうして私に手を差し伸べ、体を起こさせた。
「……ごめんなさい、亡者さんだったのね。……、私はマキ。……ねぇ、一緒に逃げてくださらない…?」
彼女……マキさんは心底申し訳なさそうにこちらを見つめると、私にそんなことを頼んできた。
逃げるというのは、獄卒か何かからかだろうか。
「……別に構わないけれど、どうして?」
「わたし、獄卒に追われているの。私は何も悪いことなんてしていないのに、悪いのはあいつらなのに、なんで、なんで追ってくるの……。」
なんで、なんでと言葉を反復しはじめた彼女を宥め、相槌を打っていく。
きっと、生前に何かつらいことがあったのだろう。
「………分かりました。貴女が悩んでいるようならば、助けになります。」
久しく動かしていなかった表情筋を必死に稼働させ、精一杯の笑顔をつくる。
すれば、彼女はこちらを見つめ、そうして笑った。
「……ふふ、貴女のその顔、すごく面白い」
「なっ…、…ま、まあ……最近全然笑ってなかったし……。仕方、ないね!」
楽しそうに微笑む彼女を見て、少しだけ心が躍る。
夢の中に閉じ込められた亡者たちは生きた死人のような顔をしているというのに、彼女は違う。
まるで普通の人間のように笑い、幸せそうに呼吸をしているのだ。
負のオーラというものは、拭いきれていないが。
「……、さ、一緒に逃げましょう。……カーキ色の軍服を着ている人よ。……、どこか、隠れることができそうなところを探したいわね。」
「……それだったら、二手に分かれて探すのはどう?あなたはすごく強い力を持っているようだし、もし獄卒の人に見つかっても逃げ切れるかもしれない。」
そうしよう、と彼女は賛成の意を示した。
獄卒といえど、元を辿ればただの人間であり、亡者だ。
夢の中にに閉じ込めてしまうことも、不可能なことではないだろう。
そう過信して、私たちは右と左に分かれた。
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2016年1月29日 0時