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49.「おそ松はあっち!」 ページ9

私は少しだけ扉をあけて、チョロ松の方をちらりと見遣った。


ひどく心配しきった顔。


ずっとかつての姿のチョロ松に侵されていた私の脳裏には、その姿は酷く別人のような感覚があった。



「……、本当に、心配してくれてたのね」



「何を言ってるの。心配してるに決まってるでしょ?納屋って危ないものたくさん入ってるし、躓いて転んで怪我したりしたら大変じゃないか。」


怪我したら、大変なことになる。


次の日には何事もなかったかのように快復してしまっている癖に、よく言うものだ。



「……別に、なんも怪我してないから大丈夫。私、そんなドジじゃないからさ。」



1人、切り離された感覚でじっと彼らを見えないところで見つめていた私、松野A。


その事実はいつになっても消えず、むしろ大きな枷となって私にへばりついてきていた。



「……お皿洗いのコツ、教えるね。すごく危なっかしいから」



そう言って私が台所へ歩き出すと、チョロ松は私に歩幅を合わせるかのように、ゆっくりと後ろをついてきてくれた。


そうして、コツを少し教えると、すぐに慣れた手つきで皿を洗えるようになった。



これだけ要領の良くて才能のあるチョロ松なら、すぐに就職できるであろうに…。


「なるほど、こうやるんだね。…ありがとうA、随分とやりやすくなったよ!」



優しい声で、チョロ松は私に微笑みかけた。


チョロ松にありがとう、と言われたのは、いつ頃だったか。


それも思い出せないくらいに、チョロ松から礼を言われたことに喜びを感じていた。



「……いえいえ、こちらこそ!」



嬉しくて嬉しくて、もっと感謝の言葉を言ってもらいたい、そう思うようになった。


部屋への階段を上っているときに、私はぼんやりと一つの事実へと辿り着いた。




私が怖がっていたのは今のチョロ松ではなくて、昔のありし姿の暴君だったということ。


壊れたようなハリボテの笑顔を浮かべて、私に嫌なことを言い続けていたあの姿がいつの間にか脳裏に張り付いていて、それが私とチョロ松の間を邪魔していたのだった。



「……心的外傷」


格好をつけて言うならば、まさにその四文字であった。


だが、今ではもうその幼き悪魔の姿はどこにも見えない。






それはつまり、私がチョロ松を許すことができたという、一つの証明にもなったのだ。




そのことに気がついた私は、階段の途中で微かに微笑んだ。

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設定タグ:おそ松さん , シリアス   
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紫垣(プロフ) - 続きが待ち遠しい!!……もっと見つけるのが早かったらまだ更新続いてたのかな( ; ; ) (4月18日 5時) (レス) @page21 id: f62f374630 (このIDを非表示/違反報告)
燎_*(プロフ) - 更新停止……だと!?!?!?誰か、!!この作者を呼び戻してこい!!! (1月17日 3時) (レス) @page21 id: 4b8e8fd2cd (このIDを非表示/違反報告)
低浮上な塩なんだなあ(プロフ) - つ、続きは…続きは何処ですか…!?!?(血涙)更新をずっと楽しみに待っております…… (10月30日 2時) (レス) @page21 id: 6cf2860157 (このIDを非表示/違反報告)
みゆ - この作品が大好きです。更新待ってます! (6月4日 22時) (レス) @page21 id: 395eb4f5e7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらっち(プロフ) - 何年でも更新を待ちます。 (2022年5月15日 0時) (レス) @page21 id: ab3ad11547 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2016年1月17日 17時

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