32.「革新的なひと」 ページ33
「………ありがとうA。」
「あ、うん。……、何があったの」
ぼろぼろになった次男の傷を自室で応急処置した後に、そう問いた。
カラ松の顔はところどころ青く染まっていて、暗闇での寝巻きの色と同化してしまいそうなほどだった。
「……チビ太、いるだろう?」
「ああ…いつもおでんを食べてた男の子。チビ太くんがどうかしたの」
「チビ太、今おでん屋やっているんだ。俺たちがいつもツケで食べてるから、俺を誘拐して、その身代金をツケとして頂く予定だったらしいんだ。」
「壮大すぎる…。……でもおそ松たちはみんな身代金どころか助けにも来なかったと。」
「ああ。……」
カラ松は黙りこくってしまった。
きっとかなり傷ついたことなのだろう。
信頼する兄弟たちから見捨てられたような感覚に陥っただけでなく、危害すら加えられたのだから。
可哀想に。
まるで、私みたい。
「………、A?」
気が付けば、カラ松の項垂れた頭を撫でていた。
傷が痛まないように、そっと、そっと。
「……、ごめんなA。……俺、兄ちゃんなのに、」
「兄とか妹とか、今はそんなんじゃない。このままじゃカラ松が可哀想。」
カラ松が何かを続けようとしていたが、あえてそれを遮った。
なんとなく、聞いてはならない気がしたから。
しかし、それでも伝えたかったのか、カラ松は点々と言葉を繋げた。
「……そっちじゃないんだ。………、昔のこと。」
昔のこと。
それだけで心臓がぐっと締め付けられるというのに、どういう心持ちで聞けばいいのだろうか。
「…一松をあんなにしてしまったのは俺なんだ。俺が母さんに怒られるのが怖いのかって小馬鹿にしたりしたから。………本当に、ごめんな。」
ああ、この前見た夢と似ている。
空色の人が言ったことと、酷く似ている。
「……すまない、忘れてくれ。…いっそ俺を殴ったっていい。今まで俺たちが傷つけた分、傷つけて。」
「……そんなこと、」
できるわけないじゃないか。
「っゔ…、苦しっ……Aっ…!」
「ごめんカラ松。私はもう怒ってないよ、恨んでもないよ。カラ松は優しくなったね。でもみんなの分を一人で背負おうとしないでいいの。……許すよ、カラ松のこと。だから、だからカラ松も私のこと許して。」
そうカラ松を抱きしめると、カラ松も抱きしめてくれた。
「……勿論。これで、お互い様。」
私とカラ松は、そっくりだ。
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kuu - これいちいち歌の歌詞になってますね、 (2022年1月1日 12時) (レス) @page38 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
kuu - 面白いです、これからシリアスだったり恋愛がある、が楽しみです (2022年1月1日 10時) (レス) @page1 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
あみ - 最高すぎます (2020年9月24日 2時) (レス) id: e43e7b87c6 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE!(心々) - なるべく早く更新してくださいっ……!……お願いです………………本当に楽しみすぎるのですよっ!! (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE!(心々) - なんでこんなに文才があるのですか??これは絶対ず〜っと!過去最高1位ですねっ!!(納得です♪)どんな小説の中でも1番好きですっ!(本当に) 星なんかいも押したいけど、前も押したからムリだ……… (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2015年11月26日 1時