33.「革命的なひと」 ページ34
夢を、見ていた。
俺たちがああなる前。
Aを、壊してしまう前のこと。
「お兄ちゃん、あーそーぼ!」
これは確か俺たちが小学生になった頃だ。
Aはまだ4つほどだった。
「ああ、勿論!」
Aがビー玉やけん玉などを抱えているということは、これまでに他の兄弟たちと遊んでいたのだろう。
昔の俺は誰かと一緒に遊べるだけの芸を持ち合わせていなかったから、その度に助かっていた。
楽しかったなあ、あの頃は。
なんであんなことしてしまったのだろう。
戻れるなら、戻りたい。
*
気がつくと海にいた。
潮風が心地よかったが、丸太に括り付けられ身動きが取れなかった。
チビ太にはおでんをぶつけられ、兄弟たちは誰も助けてくれずに、物を投げられ。
きっとAも同じ気持ちだったのだろう。
もしそうだとしたら、ここで逆上してはダメではないか。
そうして俺は10年経ってようやく、妹の気持ちを知った。
こんな最低な兄貴、あいつには見合わないだろう。
もうこのまま、どっかへ消えれるならば。
「……っ」
ガラガラと引き戸を開ける音。
誰だろうか。
トド松か十四松だろうなあ。
なんだかんだであの二人は俺に優しいのだから。
「……う、A…?」
だが、顔に触れた髪の毛で俺の予想は裏返った。
「……しゃべんないで。」
そう言ってAは何も言わずに俺を支えながら二階の自室へ向かい、応急手当をしてくれた。
俺は、何にも言えずにただされるがままに黙りこくっていた。
ただ一言礼を言って、いまいちよく分かっていない様子のAに事情を説明した。
嬉しいことに、Aは丁寧に相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
本当に優しいひとだ。こんな駄目な兄貴に優しくできるなんて。
そう思えば思うほど悲しくなってきて、罪悪感で潰されそうになる。
チョロ松がこの前言っていたことがよくわかる。とても苦しい。
もし俺たちがこの苦しさから逃れられるならば、その逃れられるチャンスは今しかない。
感じていることを演じては駄目だ。
必死に考えた空の思考を演じては駄目だ。
伝えたい気持ちを演じながら伝えては駄目だ。
今更になって、いい子を演じては駄目なのだ。
「兄」になりたくないというモラトリアムを、「子供のままでいたい」というモラトリアムを俺たちがいつまでも続けていたら、いつしか本当にAが壊れてしまう。
ああ、なんでこんなに簡単なことに気がつかなかったんだ。
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kuu - これいちいち歌の歌詞になってますね、 (2022年1月1日 12時) (レス) @page38 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
kuu - 面白いです、これからシリアスだったり恋愛がある、が楽しみです (2022年1月1日 10時) (レス) @page1 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
あみ - 最高すぎます (2020年9月24日 2時) (レス) id: e43e7b87c6 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE!(心々) - なるべく早く更新してくださいっ……!……お願いです………………本当に楽しみすぎるのですよっ!! (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE!(心々) - なんでこんなに文才があるのですか??これは絶対ず〜っと!過去最高1位ですねっ!!(納得です♪)どんな小説の中でも1番好きですっ!(本当に) 星なんかいも押したいけど、前も押したからムリだ……… (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2015年11月26日 1時