【マギ】翔べない天使～Overture of the angel～ (ページ5)

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第三話ページ5

「あ、あんたすげーな！」

「もしかして、錬金術とかいうやつか！」

「よかったら俺の家直してくれないか！？」

「あたしも！」「俺も！」

あっという間にたくさんの人々に囲まれてしまった。ある程度、予測してはいたが
面倒くさい。やれやれとファイがため息をついて言った。

「だからいったじゃないですか」

「・・・逃げよっか」

そう言って二人は同じタイミングで飛び上がると、民家の屋根に降り立った。
軽くAはウインクして言った。

「錬金術の基本は『等価交換』。だから、無償では何もできないんだ。ごめんね」

そのまま二人は器用に屋根伝いに走り去っていってしまい、すぐに見えなくなってしまった。
人々はポカンとして、珍妙な二人組を見送った。

その中に、二人をじっと見つめる黒いルフを纏った者がいるとは知らずに。

＊

「あのさ、単刀直入に聞くけど。迷った？」

「・・・」

「沈黙は肯定と取るぞー」

あれから数刻後。もうすっかり日も暮れて冷え込み、月が輝き始める頃。

観衆から逃げたのはいいが、目的地の宿へ向かおうとして完璧に迷子になってしまった。
Aは、はっきり言って方向音痴である。だからファイに頼るところが大きいのだが
今回はファイも打つ手なしだった。

というのも霧が濃く、自分の足元すらおぼつかないほど前が見えないのだ。

「・・・ここ通った気がするんだけど」

「さっき通った豪商の屋敷の前辺りじゃないですか」

「あうう、結局同じとこぐるぐるしただけか・・・」

疲れたー、とAがため息を吐く。顔に疲労の色が浮き出ている。
昼からずっと歩き続けているのだから無理はない。

「そういえばさ、やたらと兵士が多いね。何かあったのかな」

「俺、さっき聞いたんですが、なんでも『霧の団』とかいうテロリスト、というか
　義賊という奴らがいるらしいです」

「ふーん。どおりでよそ者に対して厳しい訳だ。そんな中でバルバットに足を踏み入れたのは、
　正直時期が悪かったとしか・・・ん？」

「！」

他愛もない会話をやめ、二人は足を止めた。一瞬にして空気が殺伐とする。
兵士たちが騒ぎ出す。霧の団が出た等と喚きながら何もないところに攻撃している。
明らかに異常事態だった。無意識に二人は背中合わせになる。

「！ファイ、霧を吸うな」

「了解です。・・・何か来ます」

霧の奥から大勢の人影が出てくる。それを見てAが不敵に笑って言った。

「――どうやら、霧の団のおでましのようだな」