【おそ松さん】お前らがいる限り、元には戻れない。２

47話。 ページ18

________来ないで、嫌だ！

自分の姿さえも薄っすらとしか見えない中を、
私はただ無我夢中で走っている。

見えない何かに追いかけられている気がして。
人影もなく、ただただ何かが迫って来ていると恐怖から逃げ惑う。


足が痛い。息が苦しい。
ここは苦しみしか無い。

物理的な痛みが私を刺激し始めている。


足は裸足だった。



｢いたｯ…。｣

私は何かに躓いた。
その物は少し離れた所に弾き飛ばされている。



｢これって……【カッターナイフ】？｣

カッターには嫌な思い出しかなかった。
例えるなら高校の頃の文化祭だ。


｢…ん？でも確か…｣

突如、頭の片隅でカッターナイフという言葉が
記憶に突っかかった。


｢中学の頃に…。｣

その瞬間に背後からぞっとした気配を感じ、
私は振り返った。









勢いよく身体を起こす。
冷や汗が止まらない。

周りを見渡すと見慣れた景色、
私の病室が広がっていた。

いつの間に寝ていたのだろうか。
空は朱色をベースに薄暗い闇がかかっている。



「…ほんとに変な夢。」

最近この夢をよく見ている。

いつもカッターナイフのくだりで、目を覚ましてしまう。あれは一体私に何を語りかけているのだろうか。




「大丈夫ですか？うなされていましたよ。」

看護師が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
怖くなり、とっさに彼女の元から離れた。

記憶が無い以上人が信じられないのだ。



「あ、ごめんなさい。
実はこの部屋に先程来ていた方にこれを渡してくれと言われていて…。」

看護師は花瓶に入った、
色とりどりの九本の花を置いた。


「この色合い、お見舞いにしては珍しいですよね。せっかくなので、飾ろうと思いまして。」

ベッドの端から花をじっと見てみた。

看護師の言う通り、珍しい。
不思議という感じが花本体からも感じられる。


私があまりにもじっと見てるもんだからと、
看護師からフフっという笑みが出た。

何かを思い出したのか、あ、という声を上げた。



「そう言えば……花がもう一本あったのですが、

花瓶に入れる前に、花びらがすべて散ってしまったので、捨ててしまいました。ごめんなさいね。」


私は首を横に振った。
相変わらず、人と話す時は声を出したくない。

看護師は、ありがとうございます。と言い、
安心したように病室を出ていった。


それにしても、いくら花でも枯れるには早すぎだ。
私の中で不信感が徐々に出始める。




花といい、夢といい、一体なんなんだ。

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