魔女の世界 ３

〜115〜 ページ18

『ファイス……うん、そうだったね。あんたがいる。私は大丈夫。でも……』
　くだらない誰かの記憶はまだ続くみたいだ。共感はできるけど、今は関係ない。頭殴ったら消えるかな？
　ガスッと殴ってみる。視界がぐらぐらと揺れる。でも、映像は現れたまま。
『あぁ、殺意は消えないんだよな』
　その青年は、優しく笑った。あ、今の笑み、セレンに少し似てるかも。セレンの方が数百倍格好いいけど。
『全部許せないなら、全部殺してしまおう。俺が協力する』
『ありがと……けど、何でそこまでしてくれるわけ？』
『そんな分かり切った事を』
　彼は後ろから彼女を抱きしめた。
『キミが好きだからだよ』

　映像は無視する事にして、闇の中をまた進む事にした。それにしても、目を瞑れば映像、開ければ真っ暗、なんて変なの。どうでもいいけどね。普通と反対になっても、私は、セレンが幸せで、そのセレンと一緒にいられれば……。
「ん、思い出した」
　何で今思い出したか分かんないけど、レイラって私のお祖母ちゃんのお母さんだ。とっても綺麗な人で、とっても頭のおかしい人。えっと、それから、お祖母ちゃんはレイラの事をなんて言ってたっけ……？
『ア…は…イラの……なっ………いけ……よ』
　んー、思い出せない。そもそもお祖母ちゃんが思い出せない。どんな顔だったっけ？ どんな性格だっけ？ ……まぁいっか。

　映像の中の少女が、いつの間にか血塗れになって、青年に微笑んでいた。
『殺した。殺してやったよ。あいつら。切って。刻んで。裂いて。斬って。刺して。殴って。撲って。絞めて。撃って。焼いて。破って。壊して。楽しくなかったけど。嬉しかった、あいつらを殺せて。手伝ってくれてありがとう』
　と同時に、強烈な感情の波が流れ込んできた。殺意を達成した喜び。とても"共感"できる感情だけど、興味はない。ただ、ウザくて、圧迫してきて苦しいだけ。

　あー、お母さんとお父さんの顔も思い出せないな……。あ、でも、セレンさえ覚えておけば良いよね。………アスラ君は……まぁ、覚えておいても良いかも。

　青年は微笑み返した。
『良かった。俺はキミが満足であれば、幸せであれば、それで良い』
　＿＿＿"狂え"。
「？」
　未だ続く感情の奔流の中で、鋭くよどむモノが異様に浮かび上がってきた。
　＿＿＿狂え狂え狂え。
　今まで以上に精神を押し潰さんと迫ってくる。
『俺の愛しいレイラ、キミの狂い方は美しい。……あぁ、もっと狂ってしまえ』

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