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時刻は夕方5時。
今日は埼玉での任務ということで、
放課後に夏油を迎えに行った。
車庫で車に乗り込み、
行き先をマップに読み込んでいると
サイドミラー越しにゆっくりと
彼がやってくるのが見えた。
しかしその足取りがいつもより重たいように感じ
近づいてくるにつれて
なんだか今日の夏油は顔色が悪いように見えた。
夏「やあ、Aさん。今日もよろしく」
丁寧な挨拶はいつもどおりであったがしかし
やはり声に元気はない。
不審に思い、私も一言『大丈夫か』と尋ねるが
それに対して何がとも聞かず、
大丈夫、気にしないでくれという
生返事しか返ってこなかった。
絶対それだいじょばないやつ…
珍しいその姿に少し心配になり、
もう一度尋ねようと口を開くが
夏「時間が押してしまうよ。早く行こう」
憚るように彼の言葉がねじ伏せた。
わたしは仕方なくアクセルを踏み車を走らせた。
*
現場に向かう車内は静かで
いつもなら彼が無駄に余計なことを聞いてきたら
日常の話をしてくるのにそれすらなく
まるでそこには誰もおらず
1人で車を走らせている気分になった。
存外、彼との会話を楽しんでいた自分がいたのかと
いつもなら軽くあしらうその時間すら
愛おしく感じてしまった。
現場に着くと、
彼はそそくさと外に出ようとした。
それに対して、いつもなら車内から見送るだけだが
今日は慌てて彼を呼び止めた。
『本当に、大丈夫なのよね?』
夏「なんだか今日はやけにしつこいね」
物腰は丁寧だが、
その返事は苛立ちが顔を覗かせている。
『私の仕事は、任務に当たるあんたら生徒の健康状態を管理するのも仕事の一つなのよ』
それを聞いても尚、無言の彼と視線が絡む。
そんな頑なな姿勢をみて
だめか、
もう時間もだいぶ押していたこともあり
とうとう私が折れた。
『…任務で怪我をしないよう気をつけて』
夏「ありがとう、Aさん。いってきます」
彼のその機嫌の悪さも、顔色の悪さも
結局何もわからぬまま任務に送り出した。
担当補助監督としては失格である。
だがそれよりも、
結構仲良くなっていたつもりでいたのに
信頼されてないことを肌で感じたことの方が
『…ちょっと、こたえるなぁ』
車内の低い天井を見上げ、
ずるずると座席に沈み込んだ。
『思春期って難しい…』
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作者名:アイコ | 作成日時:2020年12月31日 23時