名もなき花に水を【夏油傑】 (ページ22)

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夏油sideつづき

正門を出ると、

もう何本目になるのかタバコを咥え
空にのぼっていく白煙を眺める彼女を見つけた。

最近は肌寒くなったというのに、彼女は変わらず
毎回車の外で私の帰りを待っている。

そのいつもの光景に安堵しながらも
それに声をかけることもせず、

私は無言で後部座席に身を投げた。

彼女はそれに気づくと驚き、
慌ててタバコの火を消して運転席に乗り込んできた。

そして戸惑ったように
ミラー越しにこちらをチラチラと見てくるが

しかし、なにも問うことはせず

そのままシンとした空気を乗せて
車は帰路を走りだした。

ゆっくりと走り続ける車の心地よい揺れに身を預け、

私は気持ちを整理するべく目を瞑る。

【弱気を助け強気を挫く】

あの少女の叫ぶ姿が、容赦なくまぶたの裏を指す。

私の信念は、
一体何をもってして、誰に通用するのだろうか。

そもそも、弱気を生む人間が

弱い者にも強い者にも仇名していることが

【悪】なのか。

…ならば、その根本を正さねば

私の【正義】は通用しないということか？

あゝ

わからない。

最早、そうなれば正義とはなんなのか。

ここにきて私は、自分を見失ってしまった。

心にあったはずの【正義という名の花】は
みるみるうちに枯れ

もはやそれは

正義だったのかも定かではない

【名の知れぬ花】となってしまった。

…もう、どうしたらいいんだ。

私は言葉にできないドロドロとした気持ちに溺れてしまいそうで、

藁にもすがる気持ちで、
目の前の彼女に助けを求めた。

夏「ねえ、Aさん…ひとつ、いいかな」

どうかこの私を

ここに留めてくれという一心で。

私が信頼している唯一のあなたに尋ねたいんだ___