名もなき花に水を【夏油傑】 (ページ11)

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どうやら敵に隙をつかれて、

珍しく怪我をして帰ってきたようだった。

というよりも、そもそも怪我する姿すら
初めてみた私は、その流れ出る血に激しく動揺した。

当たり前だが、私は反転術式など高度な技術を使うこともできないため

一般人と同様の応急処置としての対応しかできない。

一応、応急処置は習っていたものの
なにぶん初めてのことで

そんな珍しくあわてる私に、彼は笑っていた。

夏「頭だから、血が多く出ているだけだよ。見た目ほど怪我はひどくないからそんな慌てないでくれ」

何が面白いのか、未だ肩を揺らして笑う彼の頭からは

その言葉と裏腹に、更にダラダラと流血させている。

『いやいや、そんなの見せられて落ち着けるような出来た人間じゃないのよこちとら。心配ぐらいするわ』

取り敢えずテンパりながらも

手元にあったハンカチを傷口に強く押しつける
荒技を披露して

助手席に夏油を乗せると車を走らせた。

道中、心配のあまり

なんども運転しながら声をかけ

意識確認をしながら高専に向かう。

そのおかげで注意散漫になり、

何度かガードレールにぶつかりかけた。

その度に、己の怪我よりも事故で命を落とすのではと

夏油が青い顔をして縮こまっていたことに

Aは全く気づいていなかった。

＊

漸く高専に着くと

隣でシートにもたれ掛かっていた夏油の肩を叩いた。

『大丈夫？夏油くん生きてる？』

夏「事故してないなら、まだ生きてるね」

『なんの話してんの。でもよかった意識はあるね』

今担架呼ぶから待ってて、と
スマホを取り出して医務室への番号を探す。

しかし、その手はいつかのように
夏油の手によってまたもや憚れた。

夏「大丈夫。歩けるから己の足で行くさ」

それだけ言うと、いつものようにそう微笑み
ゆっくりと外へ出ていった。

夏「今までも思わなかったわけではないけど。
改めて、君はつんけんしているところがあるけれど、心根は優しく温かい人だと気づいたよ」

『そんならしくもないこと言わないで頂戴。ほんとに死ぬよ』

彼の余裕そうなその姿に、何故か無性に腹が立ち
よくわからない怒りをぶつけた。

しかしそれを聞いても
なぜか夏油は嬉しそうにするだけで

「ありがとう、Aさん。またね」

小さく手を振り校舎に消えていった。