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試合を見られることを楽しみにしておくね、そう微笑むと豪炎寺はほんの少しだけ表情を暗くした。なぜだろう。喜ぶかと思ったのだけれど。



「豪炎寺、何かあった?」



「……」



 私の問いに豪炎寺は口を引き結ぶ。否定は、無い。
 何かあったのは確かだろうが。事情を話すつもりは無いらしい。あまりすっきりとしない表情だ。

 それを見て、どこかで見たことがあるような顔だと思った。そう、あのときだ。
 転校してきて間も無いとき。まだサッカーは辞めたのだと苦しそうに守に言ったとき。夕香ちゃんのことを思って耐え忍ぶような顔をしたとき。

 そしてその表情を見て、昨日のことも思い出した。あたたかな手のひらの感触。ずっと冷静で落ち着いて硬い印象があったのに、あのときだけはほんの少し柔らかくなった、声。



「誤魔化すとき、少し表情が硬くなる」
「安心しろ、俺はお前を暴きにきた訳ではない。お前に借りを返しにきたんだ」
「きっと、この間お前がしてくれたことは周りから見れば”おせっかい”だ。だがな、そうだとしても、俺はお前の言葉のおかげで引き上げられたんだ。俺はお前がくれた”おせっかい”を返したいだけさ」




 きっと、豪炎寺の中でも同じことが起こってるんだと思った。
 いつの間にか作り上げてしまった心の壁が、私と豪炎寺を少しだけ隔てている。それが悪いことだとは思わない。でも。



「ね、豪炎寺」
「なんだ?」
「抱え込みすぎちゃだめだよ」
「……、A」
「きっと豪炎寺のことだから、倒れることなんてないんだろうけど。でも、あんまり抱え込みすぎちゃだめだよ」



 私から事情を聞くことはしないでおこうと思った。豪炎寺が必要無いと感じたのであれば、私が豪炎寺を問い詰める必要などない。それでも、もしも豪炎寺が話したいと思ったとき、話しやすい場所だけは開けておきたかった。

 豪炎寺は少しだけ目を見開いて、数秒ののちにふ、と笑みをこぼした。先程の硬さが少しだけ柔らかくなったような気がした。



「ああ。……ありがとう」
「ん。準決勝、応援してるから」



 多くの言葉は要らなかった。私の言葉をじっくりと咀嚼するかのように、豪炎寺は静かに佇んでいた。
 私はまっすぐ豪炎寺の瞳を見た。迷いの無い澄んだ黒い瞳が、私をそっと見つめ返していた。

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彩夏(プロフ) - Aoiさん» 大変かと思いますが応援しています! (2022年9月11日 10時) (レス) @page24 id: 67c757144e (このIDを非表示/違反報告)
Aoi(プロフ) - 彩夏さん» 彩夏さま コメントありがとうございます。とても嬉しいです。本当にいよいよというところで、私も楽しみですしわくわくしています……。お待ちいただきありがとうございます。どうぞお楽しみにお待ちください。 (2022年9月11日 0時) (レス) id: f51011eb5a (このIDを非表示/違反報告)
彩夏(プロフ) - いよいよですね!展開が楽しみです! (2022年9月10日 23時) (レス) id: 67c757144e (このIDを非表示/違反報告)
Aoi(プロフ) - ヒマリさん» ヒマリさま 長い間ご覧いただき、そして応援してくださり、本当にありがとうございます。拙い文章ですがお楽しみいただけたら幸いです。随時更新していきますので、どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。 (2022年7月15日 20時) (レス) id: 0783a9abb5 (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリ(プロフ) - 続編おめでとうございます。ずっと前から応援していた作品なのでとても嬉しいです。これからゆっくり読み直しにいこうと思います。これからも応援していますので、作者様のペースで更新して頂けますと幸いです。 (2022年7月15日 20時) (レス) id: ba87716a36 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Aoi | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aika398/  
作成日時:2022年7月3日 2時

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