花笑みのきみ (ページ9)

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4　閑話休題ページ9

そこに

「そんなに笑っちゃあ、かわいそうでござりんしょう？」

と
涼やかな声がかかった。

その声に、半身を起こした智三郎は

「おぉ、高尾か。」

と言った。

今、智三郎に声をかけたのは
吉原一の大見世・大野屋きっての最上級遊女
八代目高尾太夫である。

高尾の顔を見るなり
みやびは
弾かれたように立ち上がり

「姉さまっ！」

と高尾に抱きついた。

「せっかく上手に弾けたのにねぇ。」

高尾は
抱きついてくる華奢なみやびの体をやんわり抱きしめ
指の腹で
みやびの目ににじんだ涙をぬぐってやった。

さてさて

ちょっとここで閑話休題。

ここで登場してきました八代目高尾ですが
プロローグで
真っ先に登場してきたのですが
皆さん、覚えてますかしらん？

この『高尾』というこの名前
大野屋では特別なんです。

大野屋の遊女が
誰でも
その名を名乗れる訳ではないんスよ。

美貌・教養・品格
すべてにおいて
飛び抜けている女でないと『高尾』の名は与えられません。

あの紺屋久三に嫁いだ七代目高尾以来
『高尾』の名を欲しがる遊女は星の数ほどいたが
大野屋智三郎は
ふさわしい者はいないと
誰にも『高尾』の名を継がせなかったぐらいですからね。

でも
ようやっと
智三郎のお眼鏡にかなう女が現れました！

それが
この八代目高尾なんです♪

だいたい、吉原の遊女ってのは
最初は
禿(かむろ)として
雑用をしながら廓のしきたりや遊女としての躾を学んでいきます。
んで
１５歳くらいになったら
新造という中級遊女となって客をとりはじめます。

遊女の中でも上級遊女は花魁と呼ばれました。

その花魁の中でも
最高位の者は太夫と呼ばれておりました。

吉原には三千人の遊女がいたといいます。
その中で太夫になれるのは
ほんの一握りの女だけでした。

そんな中
八代目高尾の人気は
今や七代目をしのぐとも言われておりまして

彼女をモデルにした浮世絵や小説は
売れに売れてるし

江戸の町娘達も
八代目の着物の柄や化粧の仕方を真似したりするから
八代目様式という流行が生まれるほど。

さぁて
その八代目高尾が
この昼日中
大野屋主人の本宅にやって来たのは
いかような用件だったのか？

ちょいと続きを聞いておくんなまし。