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その後要件を適当にでっちあげて、私は席を立った。
「この後予定があるから」なんて言って私は財布から千円札を抜き取ると机に置いた。
きっと彼の性分だから払いたがるだろうけれど、今日くらいは謝礼として是非受け取っていただきたい。
案の定立ち上がってその美しい顔を些か複雑そうに歪める彼に、「また明日」と告げると、何とも気の抜けた声でさよならを告げられた。
その気だるげに手を振る姿さえ様になるほどの美形。
私は知ってる。カフェ中の女の子の視線を、彼が知らぬ間に追い落としていた事を。
夕方になる前の橙色の薄日を背に、人通りの多い日曜日のアーケードを抜けて足早に駅の改札を通る。
いつもなら味気ない電車の中が、明日から五条くんと過ごす家への帰り道だと思えば、もう、社内の広告ですらビビッドだった。
「ただいまぁ」
モノトーンなリビング。散らかった洋服を集めながらよく分からないチラシや封筒をまとめてゴミ箱に捨てる。
室内に干していた下着や靴下も全て洗濯ばさみから取って、たこ足の物干し竿をクローゼットにしまう。
仮にでも、明日から人生の片隅に巣食っていた彼と同居することになる。
必要性はないし、そこまで気にしないだろうに水回りの鏡の掃除までしてしまった。
__……期待でざわざわした面持ちで迎えた翌日は、それはもう顔が綻んでしまう程の快晴だった。
そういえば今日は経験の浅い後輩看護師が申し送りをする日だったな。
昨日急患が入ったって連絡があって時間もかかるだろうし、今日は早めに行こう。
「_Aさん、お先に失礼します」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
時刻を見れば午後5時をまもなく知らせるところだった。
数人の夜勤勤務の看護師がもう既に出勤していたので、カルテの入力をしながら、そういえばと五条くんの存在を思い出した。
「迎えに来て」と一言送ったメッセージは、送信して僅か数秒で既読がつく。
その後すぐに「仰せのままに」なんてスタンプが来たものだから、甘酸っぱい気持ちで私は職場の位置情報を送った。
「Aちゃん、彼氏?」
「太田さん。リハビリお疲れさまでした」
私がマスク越しでもにやついているのが分かったのか、患者さんが数人集まって私の話に花を咲かせる。
質問攻めになっていた時、後ろのエレベーターが4階を知らせた。
「A」
「あ」
五条くん。彼はいつでもどこでも異彩を放つ。
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花帆 - 両者の視点で本心が読めるのも面白いです♪続き楽しみにしています! (2022年9月28日 2時) (レス) @page28 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - yukinoさん» yukino様、作者の様々な作品に目を通して頂き大変うれしい限りです。yukino様から頂いたコメント、全て拝見しております。いつも励みになるコメント、ありがとうございます! これからもどうぞご支援頂けると幸いです。 (2022年1月20日 5時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
yukino(プロフ) - 私呪術廻戦では五条悟が一番好きなんですよ!(知るか) 読んでて,とても面白いです!!!続き気になります!頑張って下さい!! (2022年1月17日 20時) (レス) @page18 id: b465ac1425 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 董香さん» 董香様、コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、励みになります!(^^)これからも頑張れます! (2021年5月31日 16時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
董香(プロフ) - はじめまして!こんにちは! 読んでてすごくおもしろいです!!!これからも楽しみにしてます (^^) (2021年5月30日 13時) (レス) id: cdc6ebec75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2021年5月29日 15時