09-ラストチャンス ページ25
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午後9時。
今日だけは死んでも生き返ってやるの意気込みで仕事を消化し続け、いつもよりは大分早い帰宅となった。
もう2週間もなる、通い慣れたマンションへ入り、既に明かりの漏れている窓を見て少し安心しながら鍵を開けた。
「おかえり」
「……ただいま、A」
改まって、名前を呼ぶのは少し勇気が必要だった。
だけど当の本人は全く気にしない素振りでまた携帯へと目を戻す。
テーブルのすぐ近くに鞄を捨てて、僕は真っすぐAのもとへ向かう。
「あ、悟」
「っ、え、何?」
深呼吸を2回して意気込んだ僕よりも僅か先に、彼女は僕を呼んだ。
意を決していた僕は、不意打ちすぎる呼びかけに思わず動揺を隠しきれずに出した。
「__明日、恋人と話し合いに行くから。着いてきてくれる? 悟も」
「……っ、いいよ」
「わかった。ありがとう」
彼女の用事はそれだけの様で、あっさりと会話は終わってしまった。
……だけどいい機会だ。
きっとAは明日、偽の恋人である僕を使って彼氏と別れたら、任務を終えた僕とも関係を終わらせに来るに決まってる。
「………んなの、いいわけねぇだろ」
「……え? なんて?」
「A、好き」
僕の一言で、彼女は意図せず携帯を落とした。
落ちた携帯を見つめ続けるA。
僕は近づいてその視線に合わせるように彼女が座る膝の間にしゃがみ込んだ。
「次の恋人は、僕にして」
「……」
「今まで我慢してきたけど、偽の恋人とかもう限界。
お前の隣にふさわしい男とかもう僕以外有り得ないから。
高専の時から、ずっとお前に惚れてる。
だからお願い、俺をAの、最後の恋人にして」
目を逸らさなかった。
こんだけ目を凝らしているのに、彼女の瞳から読み取れる感情は一つも無かった。
長い沈黙が僕を殺してきそうで、無意識に僕は近くにある彼女の手を握り込んだ。
「……悟」
「うん」
「遅いよ。ずっと、待ってたんだから」
「…………あ?」
思わずサングラスがずり落ちた。
そして間髪入れずに、彼女は僕に衝撃の事実を伝える。
「恋人なんて、いないよ」
「だって私も、高専から悟しか見てなかったから」
ついに僕は、妄想まで目の前で繰り広げられるようになったんじゃないかとまで、錯覚した。
つまり、つまり。
彼女も、僕の事を。
「好きだよ、悟」
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花帆 - 両者の視点で本心が読めるのも面白いです♪続き楽しみにしています! (2022年9月28日 2時) (レス) @page28 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - yukinoさん» yukino様、作者の様々な作品に目を通して頂き大変うれしい限りです。yukino様から頂いたコメント、全て拝見しております。いつも励みになるコメント、ありがとうございます! これからもどうぞご支援頂けると幸いです。 (2022年1月20日 5時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
yukino(プロフ) - 私呪術廻戦では五条悟が一番好きなんですよ!(知るか) 読んでて,とても面白いです!!!続き気になります!頑張って下さい!! (2022年1月17日 20時) (レス) @page18 id: b465ac1425 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 董香さん» 董香様、コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、励みになります!(^^)これからも頑張れます! (2021年5月31日 16時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
董香(プロフ) - はじめまして!こんにちは! 読んでてすごくおもしろいです!!!これからも楽しみにしてます (^^) (2021年5月30日 13時) (レス) id: cdc6ebec75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2021年5月29日 15時