色事は銘々稼ぎ【五条悟】

..... ページ17

.




僕の「ショッピングに行こう」なんて言葉で、彼女は携帯と睨めっこしてレンタカーを予約している。

今日の運転はAに任せることにする。
僕は免許を持っていない訳じゃないけど、折角彼女も免許を持っているなら、貴重な体験をしたいものだから。





「運転なんて久しぶりなんだけど。緊張する」

「大丈夫大丈夫〜。リラックスして」

「ミラーオッケー……よし。…行きます！」

「しゅっぱーつ！」





緊張気味にサイドブレーキを下ろした彼女は肩を上げたままハンドルを両手で握った。

　うわーー可愛い。ちょっとぽかんと口を開けてるのとか、やばい。写真撮りたい。


おーーい、見てる？ Aの彼氏とかいう男。君の可愛い彼女の横に乗ってるよー。知らない男が。
君は助手席に乗ったことある？ こんなに可愛い彼女見たことないでしょ？





「お腹減ってきちゃった」

「この近くのコンビニ寄れそうなら寄ろっか」

「うっ、が…頑張ります」





超安全運転でドライブを続けていた僕たちは自分の腹時計で今が昼時だということを悟った。

幸いにも後続車がいない内にコンビニを見つけて、そこで昼ごはんを買って車内で食べることにした。


　彼女はおおぶりのおにぎりが二つ入ったものと、レモンティーを。僕はホットスナック類。





「いただきまーす。…んん、！」

「美味しいのね。喉詰まっちゃうよ〜」

「ふふんふん…！」

「空っぽにしてから喋りなさい」





見た目にそぐわずおっきな口を開けて一口いったAは、出てきた具材の断面とキラキラした目を僕に見せてもぐもぐしている。可愛い。

Aの膝の上に置いていたレモンティーの蓋を開けて渡してやると、何度か喉を鳴らして食べ物を飲み込んだ。





「こんなの東京のコンビニにないよね！ こんなおっきいおにぎり。すっごく美味しい！」

「そんなに美味しいの？」

「うん。一口食べる？」





何気なく渡された食べかけのおにぎりを、彼女の手から若干緊張気味に頬張る。
　焼き鮭の良い風味と絶妙な塩加減の米、それから目の前の可愛い彼女のおかげで他のおにぎりとは違う特別な味がした。

僕の「…うま」の一言に、彼女は喜び顔をより一層綻ばせた。





「ようし、腹ごしらえもしましたので出発しましょうか！」

「A、眠くなったら代わってあげるからね〜」

「子供扱いしないでよ」





幾分かリラックスした様子の彼女が、サイドブレーキを下げ忘れていたのは、次の話。



.

.....→←06-ある日の朝

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す