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『…泣いてないよ〜。ちょっと肌寒くて』
「本当に?」
『うん、ほんと』
空元気なその声にますます自分の足が速くなる。
目の前のスーパーの道を一人歩く、小さな影。
ゆらゆら揺れているそれは紛れもなくAだった。
電話を切らないまま僕は速度を落として歩く。
彼女は僕に気付くと、目を見開いてそれから優しく微笑んだ。
「悟くん。本当に迎え来てくれたんだ」
「来るに決まってんじゃん。Aのためだったらね」
「モテる男は違うなぁ」
少し赤くなっている目元と頬。
酔っているのと、泣いた証拠だ。
わざとそこには触れないで、僕はふらふらしている彼女の荷物を奪い取った。
「自分で持てるよ」と不服そうに僕に手を伸ばしてくるもんだから、「じゃあちゃんと離さないでね」とその小さな右手に僕の手を重ねて強く握った。
「…悟くんは、ずるい」
「えー何が?」
「わかってるくせに」
「何の事かわかんないな」
いつもしっかりしているAが、今日だけは大人しく僕に何でもさせてくれた。
玄関も僕が開けた。彼女をソファまで座らせたのも、僕。
彼女に何かしてあげられることが出来て心底嬉しいのと同時に、僕にもっと頼って欲しいとも言いそうになった。
「はい、お水」
「ん…ありがと」
「ケーキ、また明日にする?」
「ううん、食べたい」
冷蔵庫でじっくり番を待っていた白い箱を持ってきて彼女の前で開けてあげる。
4個入った箱の中身を見て、彼女は一番にイチゴのショートケーキを取り出した。
嬉しそうな顔して、器用にてっぺんのイチゴを避けながら周りのスポンジを食べていく。
それから最後に取っておいたイチゴを頬張って、Aはあっという間に完食した。
「Aちゃん。あと3つあるけど、どうする?」
「3つとも私の?」
「食べたいなら全部あげるよ」
「何でそんなに優しくしてくれるの?」
「それでAが元気になるなら」
「…」
直後、僕は目を疑った。
目の前のソファに座ってケーキを頬張っていたAが泣いた。
思わず目隠しを外してその顔をまじまじと見る。
本人も驚愕した顔で、頬を伝う涙を拭っていた。
「A、大丈夫?」
「…大丈夫、」
「じゃない」ソファから体勢を崩して、目の前で膝をついていた僕に体をぐらりと傾かせた。
ぽすん、と胸に収まるAの体。
「疲れちゃったの。ちょっと抱きしめて」
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花帆 - 両者の視点で本心が読めるのも面白いです♪続き楽しみにしています! (2022年9月28日 2時) (レス) @page28 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - yukinoさん» yukino様、作者の様々な作品に目を通して頂き大変うれしい限りです。yukino様から頂いたコメント、全て拝見しております。いつも励みになるコメント、ありがとうございます! これからもどうぞご支援頂けると幸いです。 (2022年1月20日 5時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
yukino(プロフ) - 私呪術廻戦では五条悟が一番好きなんですよ!(知るか) 読んでて,とても面白いです!!!続き気になります!頑張って下さい!! (2022年1月17日 20時) (レス) @page18 id: b465ac1425 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 董香さん» 董香様、コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、励みになります!(^^)これからも頑張れます! (2021年5月31日 16時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
董香(プロフ) - はじめまして!こんにちは! 読んでてすごくおもしろいです!!!これからも楽しみにしてます (^^) (2021年5月30日 13時) (レス) id: cdc6ebec75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2021年5月29日 15時