いのちのうつわ 6 side MUSHIMEGANE ページ23
あれから数時間が経ちすっかり夜になっていて、Aちゃんの陣痛はさらに激しくなっていた。
「いたーーーいっ‼」
短い間隔で顔をしかめながらそう叫ぶAちゃんに僕はオロオロするばかりで。
こういう時、男って本当に非力だと痛感した。
それにしてもあとどれくらいこんな時間が続くんだ…
「はーい、いきんじゃダメだよー。赤ちゃん苦しくなっちゃうからね、いきむなら息吐きながらねー」
「はぁ…はい……」
「はい旦那さんこれ。奥さん陣痛きたらこれで押してあげて」
って、助産師さんから渡されたのはテニスボール。
え、なにこれ、どう使うの？
どうすればいいの？
ただそれを意味もなく見つめていたら。
「じゃあ子宮口見てみましょう。診察室まで歩くよ、頑張って」
「え、こんなに痛がってるのに歩かせるんですか？」
そんなの無理だとつい口を出した僕に、まるでそれが普通だと助産師さんが説明をする。
「出来るだけ歩いてもらってそれでお産を進めるんですよ」
「はぁ…そうなんですか…」
「じゃあ行きましょうか」
Aちゃんは助産師さんに支えられベッドから起き上がるとゆっくりと歩き出した。
だけど痛みからかすぐに立ち止まってしまって、痛みが少し引いてからまた歩き出すといった感じを繰り返す。
「Aちゃん、頑張って！」
そんな月並みなことしか言えない自分が情けない。
それでもAちゃんはこちらを向いて笑ってくれた。
本当に強い子だなぁって感心する。
Aちゃんが診察に行くと、僕は病室を出て廊下の長椅子に座ってからふぅと一度大きく息を吐いた。
出産って、新しい命をこの世に産み出すというのはこんなに大変なことだったのか…
聞くのと実際こんなに間近で見ているのとではやはり全然違うものなんだな。
そんなことをぼーっと考えていると。
「虫さん！」
僕を呼ぶ声にそちらを向いたら、息を切らせたてつやが歩いてくるのが見えた。
そしてそのまま僕の目の前で立ち止まる。
「Aは⁈」
「今診察に行ってる、今のところ順調みたい」
「…そうか」
僕の話を聞いて少しほっとした様子でてつやが隣に勢いよく座ってから両手で顔を覆った。
「…マジ焦った」
「え？」
「このままAも子供も最悪の結果になったらどうしようって、そればっかり考えてた。俺の傍からAがいなくなるって思ったらずっと震えが止まらなかった…」
よく見れば本当にその体は少し震えていた。
いのちのうつわ 7 side MUSHIMEGANE→←いのちのうつわ 5 side MUSHIMEGANE
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 428人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かえで(プロフ) - 七海さん» ありがとうございます。ついざわくん絡みの話を書きたくなってしまいますw更新頑張ります！ (2018年4月25日 15時) (
レス) id: f1c141d7d3 (このIDを非表示/違反報告)
七海(プロフ) - ざわくんを想うヒロインの気持ちがいつも繊細でとても感情移入して読んでます。これからも更新楽しみにしてます。 (2018年4月24日 17時) (レス) id: ff325b6cef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かえで
| 作成日時：2018年2月21日 12時
