【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

嘗ての後輩。 ページ10

真咲君は、何時も冷静に整った表情を、少し動揺に歪めていた。



『こんな所で如何したの?』



「撮影の帰りスよ」



ああ、と軽く頷く。真咲君は「デスアイランド」出演でじわじわと活躍の幅を広げている。



後輩の成長は、何時だって嬉しく、そして少し寂しい。私の場合、真咲君と最初に共演したのは彼がデビュー当初の時だから尚更だ。



『頑張ってね、真咲君』



私の分も、と続けようとして思い止まった。生まれて仕舞った微妙な間は、笑って掻き消そうとする。



「・・・アンタこそ大丈夫なんスか、その、」



『スキャンダルの事?』



気遣う様に口を開いた真咲君を、笑顔の侭で遮る。彼は少し怯んだ様に目を逸らしてから、ぼそりと云った。



「・・・ふらふら立ち歩いてたら、週刊誌の奴等に捕まるんじゃないスか」



・・・ああ、善い子だなぁ、此の子。業界の弾かれ者である私に、こんな優しい目、向ける必要無いのに。



・・・だから彼は、未だ未熟だ。



『其れは君も同じでしょ?私と一緒にいる所とか万一見られたら、君迄(・・)終わるよ?』



真咲君は、何処か必死な様子で私を睨んだ。



「Aさんだって未だ終わってなんか・・・」



『終わってるよ、私は捨てられた。スターズからも、君の世界(芸能界)からも』



真咲君は、何か云い返そうと口を開いて、そして閉じた。



そりゃそうだ。此処迄云っても食い下がる程、彼は愚かな子じゃない。



『御免ね』



「・・・アンタに謝って欲しい訳じゃない」



真咲君は、険しい表情で吐き捨てた。



「アンタこれからどうやって生きてく気なんだ?全国にスキャンダルが広まったアンタに勤め口は、」



私はその問いに答えかねた。勿論正直にマフィアに入ったなんて云う訳も無いけど、今の彼を騙し通せるとも思わなかった。



＿＿＿＿けれど、そんな私の懸念を、ある声がぶっ壊した。



「Aーー！ひくっ、貴様、今日は僕の話を朝迄聞くと、云ったでは無いかぁぁぁ！」



派手に引き戸が開く音と、奇妙に裏返ったハスキーボイスに、私は先程に勝る嫌な確信と共に云う。



『・・・云ってませんよ、樋口さんと間違われているのでは?』



真咲君の強張った表情から目を逸らし、私は其の騒がしい声の主を振り返る。



『・・・タイミング、最悪です。芥川さん・・・』

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