【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

舞台の幕開け。 ページ6

「生きる意味を与えて遣ろう」



其の響きに、私は思わず彼から目が離せなくなった。



私の、生きる意味。其れは、芝居以外には有り得ないと云うのに。



「貴様は役者であったらしいな」



私の内心を見抜く様にして、芥川さんは云った。



「然し、貴様の異能が公に成った今、役者は続けられぬ。芝居を続ける術も無いのだろう?」



『・・・だとしたら、何だと云うのですか?』



落ち着きを装おうにも、段々と綻びが生まれて来た。其の綻びを広げる様に、彼の言葉が脳内に捩じ込まれる。



「最早役者で無くなった貴様が、芝居を続ける方法は未だある。



＿＿＿＿＿マフィアで、“人を殺す人間”を演じろ」



芥川さんの底冷えする瞳に、思わず息が止まる。



「日の当たる世界から、夜の世界に行きたく無いと云うならば、演者になれ。貴様の舞台は此の魔都(ヨコハマ)で、役柄はポートマフィアの狗」



何も云えぬ私に、彼は追い討ちを掛ける様に続ける。



「そして、僕等が、貴様の物語の共演者に成ってやる」



・・・芝居を続ける、唯一の路。



人殺しを演じる。此の街を舞台に、私と同じ犯罪者を共演者に。



私の中で、もう1人の私が囁いた。



＿＿＿＿＿何を迷って居るんだ。私は芝居に取り憑かれた身だろう。芝居を続けられる路が在るなら、其れがどれだけ険しくとも、選んで仕舞うのが私の業だろう。



・・・そうだ。選択の余地等、最初から無かったのだ。



「如何する?僕の勧誘に乗って、芝居を続けるか?或いは＿＿＿＿＿」



『・・・演者に、成ります』



自分の物とも思えないか細い声が漏れた。



然し、私達にとってみれば、其れで十分だった。



「ほう。大した覚悟だな、元役者・・・否、役者・住野A」



＿＿＿＿＿此の日、此の瞬間より、私の舞台は再始動した。



人殺しとしての、私の舞台が。

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