【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

化物役の少女。 ページ38

私の心臓が、ガタガタと揺れる様に暴れていた。



芥川さんとアキラの会話を、茫然と立ち尽くして聞いていた私に、唐突に与えられた役目に動揺していた。



＿＿＿＿貴様が決めろ、A。



彼の思わぬ言葉に、私は酷く驚いて、



＿＿＿＿そして同時に、凄く嬉しかった。



彼の其の科白は、表面だけの物でなく、きちんと血の通った言葉である事が確信できたからだ。



芥川さんも矢張り、アキラと同じ様に、そしてアキラとは違う形で、私を案じて下さっている。



其れが判ったから、私はアキラに向き直る。



彼を見ると、如何しても、古傷の様に記憶が痛んで仕舞う。化物になる道を進んだ事で、もう二度と戻れなくなったスターズでの日々を、否が応にも思い出して仕舞う。



其れでも、アキラから、記憶から逃げてばかりでは、私は前に進めない侭だ。



なるべく目を逸らさない様に、アキラの翡翠色の瞳を見た。



「・・・Aさん」



彼が、囁く様に云った。



「貴女はスターズに、戻るべきだ」



私は彼の言葉に、＿＿＿＿首を横に振った。



『・・・御免、アキラ』



アキラが、小さく溜め息を吐く。



「・・・貴女が、役者を辞められるとは思わない」



『其れには全く同意だよ。でもね、』



段々と落ち着いてきた私は、小さく微笑んでみせる。誰もを黙らせる、完璧な作り笑顔。役者の表情。



『私は辞めてないよ、何一つ。私はずっと、“マフィアの化物”を演じてる。本当の私は、“役者”の侭だよ。・・・ついでに云うと、スターズの事も、未だ忘れられそうに無い』



アキラが、「なら、」と、続けようとした。けれど私は、其れを遮る様に云う。



『でもそれ以上に、私は化物役が気に入っちゃったんだ』



樋口さん、黒蜥蜴の皆さん、中原さん、首領、そして、芥川さん。



“共演者”(仲間)の事を思い浮かべると、勝手に唇が綻んで仕舞う位には、私はマフィアを愛していた。



『だから、アキラ。私はもう少し、此の役を演じていたいの』



アキラは、少し驚いた様に私を見ていたけれど、やがて苦笑を漏らした。



「・・・Aさんらしい理由だね。こうなると、僕が無理矢理引き戻すのも野暮な話かな」



彼の其の言葉で、私とスターズは完璧に決裂した。



・・・けれど、後悔などしない。する筈がない。



“俳優は大衆のためにあれ”



其の呪いに縛られた私が、初めて自分の言葉で、「どうしたいか」を伝えられたのだから。

終わりと別離。→←庇護者の対立。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す