【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

苛立ちと居場所。 ページ36

Aside



アキラが私を見て、困った様な泣き出しそうな、そんな顔をしていた。



「・・・Aさん、」



呼び掛けた彼に、笑顔を見せる余裕も無い。私は掠れそうな声で云った。



『もう全部終わった後なの。今更私が君たちの所に戻れるとでも?』



アキラは続く言葉を探すように、宙に視線を迷わせた。



そんな1つ1つの仕草に、如何にも苛立って仕舞う。



『私と君は住む世界が違うの。スターズに戻ったところで、何一つ元には戻らない。・・・アリサさんに育てられた君なら、それ位判ると思ってたけど』



おかしい。冷たく云い放つべき科白なのに、如何にも縋る様な湿った口調になって仕舞う。



「・・・でも貴女は、スターズでもトップの人気だった。だから＿＿＿＿」



アキラがそんな言葉を云う度に、私の胸中はチリチリと疼く。



求められている嬉しさと、1度私を棄てたくせに、という腹立たしさが脳味噌の中でぐちゃぐちゃに掻き混ぜられて、如何したいのか自分でも見当が付かなかった。



『“化けの皮”が剥がれた私に、利用価値なんてないでしょう?』



苛立ちを其の侭投げ付ける様に、私はアキラに問い掛けた。



『元々の人気なんて、どれ程の価値も無い。誰もこんな不気味な化物の事なんて追い掛けない』



「でも・・・僕は貴女がいい。貴女が化物だとしても、また一緒に演じたい。貴女はスターズにいるべきだ」



懇願する様な其の口調にも、矢張り苛立ちが募っていく。



『・・・「どうしたいか」と「どうすべきか」を混合するのは、君の・・・君たちの悪い癖だよ』



最早取り繕おうとする気も無く、私は云った。只、アキラの言葉が所詮綺麗事だと証明したかったのかもしれない。



私はアキラを睨み付けた。そうでもしなければ、恐怖に呑み込まれて仕舞いそうだったから。



アキラは私を見据えて、そして再び口を開いた。彼が口を開く度、私の演技は揺らいでいく。



長い時間を掛けて作った、マフィアへの忠誠を、芥川さんへの誓いを、殺し屋としての仮面を、壊されていく。



「混合してなんかいない。実際そうすべきなんだ。貴女の居るべき場所は、スターズの他に＿＿＿＿」



「在る」



凛とした声と、硬い靴音。



何故彼が、此所に居るのか。混乱する頭に、力強い言葉だけが意味を持って響いた。



「住野Aの居場所は、ポートマフィアだ」



黒外套の青年が、冷徹な微笑を見せた。

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