【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

危険異能者の正体。 ページ4

日が沈み行くのと等しい速度で、私は化け物に呑み込まれて行った。



だが、私に対峙する黒外套の青年と蜂蜜色の髪の女性は、微塵も表情を動かさない。



「此れが、彼女の異能ですか」



『樋口さん』が、先刻迄とは打って代わった様に冷徹な視線で云った。



「然り。自らを化け物に変化させる異能、『よるのばけもの』＿＿＿＿面妖な異能だ」



青年は一つ咳をし、最早完全に黒い塊と成った私を、何かで斬りつけようとした。



斬られた部分は一瞬霞の様に揺らめいたものの、直ぐに何事も無かったかのように復元した。



私がそう念じたからだ。防げると判って居ても、露骨に攻撃される事等無かったから、思わず安堵の息を吐く。



「・・・ほう。厄介な再生能力だ」



青年は温度の無い声で呟き、『樋口さん』を振り向いた。



「樋口。聞いているだろうが、今日の仕事は此の化け物の『捕獲』だ。失敗は許されぬ。



＿＿＿＿善いな?」



其の響きに、思わず体が硬くなった。



・・・捕獲?彼等は何を云っている?



何も云えない私に、『樋口さん』は銃を向ける。



『＿＿＿＿＿ッ！！』



私は、銃弾を弾き返す。けれど、内心は緊張に冷や汗をかいていた。



私の異能は、日が沈んでから昇る迄、化け物の姿になる。



化け物の姿は醜いけれど、其の姿でいる間は、私はどんな事も出来る。



攻撃されても弾き返せるし、分身も出来るし空も飛べる。試した事は無いけれど、人の命だって奪える筈だ。異能の中でも、強い部類なのだろう。



けれど私は、此の姿に成った瞬間を目撃されて、芸能界を追われた。大好きな芝居が出来なくなった。



だから、こんな力は捨てて仕舞いたい位なのに・・・異能とも、もう関わりたく無いのに、何で捕獲だなんて・・・



『樋口さん』は銃撃を続けている。でも無駄だ、私が念じている限りは、どんな攻撃も効かないのだから。捕獲される事も有り得ない。



そう思い、油断をしていた。



「羅生門＿＿＿＿獄門顎」



青年の外套の裾が、巨大な獣の顎に変形し、私を噛み砕いた。



私は、体を再構築しようとする。けれど其の再構築の速度より速く、私の化け物は噛み砕かれて仕舞った。



化け物を『喰われた』私は、生身の姿で地面にへたりこむ。



「僕の『羅生門』は悪食。たとえ其れが想像上の怪物であっても、喰らう事が出来る」



青年は静かに云い、獰猛に嗤った。



「住野A。附いて来て貰おう」

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