【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

眠りと夜長。 ページ30

私は元々眠りが浅い方だった。



役者時代、撮影に遅刻は厳禁だったから、何時でも目覚まし通りに起きられるよう、睡眠には気を遣っていた。



其の眠りの浅さが、マフィアになってからは、益々拍車が掛かった。



夜にしか異能が遣えない私は夜型の生活に成り、日が高くなった頃に眠り、日暮れと供にに起きるのが当たり前となった。



さらに、昼でも任務がある時は出撃するので、1週間眠らない事もざらにある。



だからか、私は余程睡眠不足だったらしく、仮眠室に辿り着くなり寝台に倒れ込んで眠って仕舞った。



其の上今日は珍しい事に、夢すら見ずに熟睡した。流石に疲れが溜まっていたのかもしれない。







目を覚ますと、自分の手が目に入り、ぎょっとした。



其れは異形の形になっていた。怪物の物の様に黒く、揺らめいている。



何事かと一瞬思い、そしてはっと気付いた。・・・もう日が暮れたのか。



私の異能は、夜になると、私自身の意思とは無関係に怪物の姿になる。其れは私が寝ている間でも例外では無かった様だ。



此の姿で居ると、未だに組織内の人間にもぎょっとされるのだ。此の異能に大分助けられているとはいえ、矢張り好きには成れない。



・・・私が芸能界を追放されたのも、此れが原因なのだから。



久し振りに感傷的な気分に浸って仕舞いそうになった時、何か鼻先に違和感を感じた。



鼻を・・・擽られている様な感覚だ。そわそわとする。一体誰が遣っているんだ、と思い、顔を横に向けようとすると。



鼻の穴に思い切り指を突っ込まれた。



『いやぁぁぁ！？』



思わず叫んで体を跳ね起こすと、無表情の芥川さんが見えた。



「何だ、起きて居たのか。・・・早く云え」



『い、いやあの！私、鼻の穴に指突っ込まれた、んですけど！？』



必死で弁解すると、芥川さんはマイペエスにも無表情で云った。



「見た目は異形なのに声が何時もの貴様なのが妙に面白いな」



『・・・巫山戯てるんですか?』



無意識に殺意が湧く。幾ら尊敬している上司と云えど、鼻の穴に指を突っ込まれても許す程寛容には成れない。



「否・・・其の体が如何なってるのか気になり、好奇心に負けてな」



『意外と旺盛ですね』



私は少し呆れて云った。



「まぁな。・・・僕、次の任務迄に未だかなり時間がある。其れ迄与太話に付き合っては呉れぬか?」



彼からの意外な申し出に、夜は未だ長く成りそうだった。

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