【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

狂い行く舞台。 ページ29

私が初任務に赴いてから、数ヵ月が経った。



あの日から私は、毎日の様に苛酷な訓練を重ねていった。



銀さんがああ云ってくれて、私は大分肩の力が抜けたけれど、其れでもいつまでも彼等の力にぶら下がっていてはいけないと云う事位判っていた。



だから私は、銃の扱いを徹底的に練習した。異能を使いこなす訓練も始めた。



異能の訓練には、ちょくちょく芥川さんが付き合ってくれた。私は夜しか異能が遣えないから、昼も仕事がある彼は眠そうだったけれど、見放さず相手をしてくれた。



毎日毎日毎日。女優になりたての頃演技を必死に学んだ様にして、人の殺し方を体に叩き込んだ。



其の末に私は、段々戦力として扱って貰えるようになり。



今ではポートマフィアでも指折りの異能者として数えられている。



***
『首領。敵組織の殲滅に成功致しました』



私は淡々と、本日の任務内容について首領に報告した。



敵組織の人数、戦力、そして私達が奪還した資産の額。人の命を数字で数えるのにももう慣れた。



「ふむ、善く遣ったね、住野君」



森鴎外首領が、にこりと微笑んだ。彼は、私が着任した初日に、溺愛するエリスお嬢様に服を着せようとして奇声を上げていた男性だが、同時に厳格で冷酷な人物だと云う事を、今の私は知っている。



『次の任務は、何でしょうか』



「今は余り急ぎの案件は無いからね。近頃休みも無かっただろう、次に通達が来る迄は休んでいて構わないよ」



首領が何処か念を押す様な口調で云った。「訓練も休むんだよ」と、私の意思等すっかり見抜かれている。



『はい。ご心配をお掛けして申し訳ありません』



「善いんだよ、矢張り構成員の健康が最優先だからね」



にこりと笑う彼は、本当に優しい方だ。実際に疲れが多少溜まっていた私は、お言葉に甘えて少し眠る事にした。



『失礼します』



一礼して首領の執務室を出た私は、存外重い瞼を擦りつつ仮眠室へ向かった。



***
住野Aが去った後の首領執務室。



「リンタロウ。スミノ、何かおかしいと思わない?」



今迄黙って絵を描いていた金髪の少女、エリスが、椅子に腰掛ける森に声を掛けた。



「彼女、昔はもっと優しくってにこにこしてたわ。今は何だか・・・感情が、無くなってくみたい」



森は少し考え、答えた。



「確かにねぇ・・・彼女の人格は、日ごとに塗り変わっていく様だ。



＿＿＿＿まるで役者が、自らの役に没頭する余り自分を忘れていく様に」

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