【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

正論への苛立ち。 ページ27

芥川side



Aのいる部屋から出て、扉を閉めた。



「・・・・・・」



彼奴の泣きそうな笑顔が目の裏に焼き付いている。



其のせいか如何にも立ち去る気にはならず、僕は扉に背を預けて其の場に留まった。



扉から微かに嗚咽が漏れ聞こえた。其れを聞いた僕は、何とも云えぬ不快な気持ちになる。



「アンタにしては珍しいすね、芥川の兄人」



軽い声が聞こえた方を向けば、立原が此方に歩み寄って来ていた。



「・・・何がだ」



「小娘1人相手に苛付いてる処とか」



無駄に爽やかに、其奴は俺に話し掛ける。



「・・・苛付いて等おらぬ」



立原を睨みながら吐き捨てると、奴は小さく肩を竦めた。



「兄人、普段はそんな風にムキになんないじゃないスか、何時も冷静で」



立原は呆れている様に僕を見た。



「アンタ、Aが目覚める迄数時間、自分の手当てもせずに待ってたろ」



僕は其の言葉に、思わず黙り込む。図星を指された。



脇腹の傷が、ほんの少し熱を持って鋭く痛んだ。



「命に関わる事だ、普段の兄人なら疎かにしない処だろ」



変な情に絆されたりすれば、幾ら兄人と云えど死にますぜ。



立原の云う事は冷たく聞こえても正論で、此の世界での生においては鉄則で。



だが、僕は何故か反発したかった。



「彼奴が重症を負ったのは、実戦訓練を積まさず任務に連れた僕の責任だった」



立原は、如何にも呆れた、と云う様に首を傾げた。



「・・・ほんっと、珍しいな。兄人が『弱者』を庇おうとするなんざ」



余り弱い奴にゃ深入りしない方が善い。



立原は、いっそ軽快な口調で云った。



「弱者は他者に道を譲れ、アンタが云ってた事だろ?」



此奴の正しく糾弾のしようもない発言に、そして何より其の事を腹立たしく思う自分に、苛付いていた。



「・・・耳が痛いな。善処する」



「おう、兄人がそんな感じだと、部隊の方も調子が狂うんだ」



立原が、小さく伸びをした。



「んじゃ、俺はそろそろ武器の手入れでもしに行くかね・・・兄人も怪我、ちゃんと治せよ」



「ああ」



僕が短く答え、立原が其の場を去った。



けれど僕は、如何しても医務室に行く気が起きなかった。



未だ彼奴の嗚咽は続いていた。



「・・・ち」



彼奴の事を泣き止ませる事すら出来ぬ。報告がある等と云う見え透いた言い訳で、1人にしてやる事位が精々だった。



立原の言葉より何より、そんな無力な自分に苛立っていた。

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