【文スト】其の女優の行く先は【アクタージュ】

噂と訓練。 ページ19

私の自己紹介に、立原さんが愉しそうに云った。



「ふぅん、じゃあ芥川の兄人が女優を口説き落とした、っていう噂は本当だったって訳か」



『・・・え?』



何其の噂。え?私そんな噂立てられてたの?ていうか、私口説かれてたの?



あれ、でもそういえば私、酔った芥川さんに思い切り「貴様は僕の女だ」って云われたけど、あれは口説かれたうちに入るのだろうか・・・?



まあ皆さん(特に樋口さん)にこんな事を云っても無駄に動揺させるだけだし黙っておこう。酔ってただけで他意は無いだろうし。何ならあの発言自体もう記憶に無いだろうし。



「ななな何云ってるんですか立原！Aは口説かれたんじゃなくて勧誘されたんです！ねえA！?」



案の定と言うべきか、凄まじく動揺している樋口さんに、『はぁ』としか云えない。



「ほら云ったじゃないですか立原！」



「明らかに云わせてんだろ、こえーよ姐さん・・・」



立原さんが激しく引いてますよ、樋口さん・・・



「つーかよ、其の兄人は今何処にいんだよ?」



『芥川さんは体調が優れない様なので』



呑みすぎで。



「あー、兄人よく体調崩すよな」



そうなんだ・・・何となく意外だけど、そういえばよく咳き込んでたな、あの人。



「何はともあれ、そろそろ訓練を始めないか樋口君」



広津さんが咳払いをした。矢張り纏め役は此の人なのか・・・



「は！そうですね、何時までも駄弁っていては先輩に怒られて仕舞います！」



樋口さんはぱちんと手を叩き、私に銃を手渡した。



「此れは初心者向けの型ですので、貴女でも扱い易いと思います。此れで、あの模擬戦闘用の人形に弾を当てて下さい」



『・・・はい』



黒く光沢のある銃を握り、緊張気味に答える。



「あ、実弾入ってるから気をつけて下さいね」



『！?・・・判りました』



そんな気軽に重要事項云わないで下さい・・・吃驚した・・・



より一層緊張して銃を構えると、立原さんが声を掛けてきた。



「なぁAサン、銃撃つんなら其の帽子は脱いだ方が見易いんじゃねえのか?」



私は目の前を覆うベールに手を触れる。確かに少し見にくいのは事実だけど、



『・・・折角、私の事情を考えて選んで下さったので』



演技でなく、自然と笑みが零れた。こんな事、何時ぶりだろうか。



「・・・なあ、矢っ張アンタ口説かれたんじゃねえのか」



立原さんが独り言の様に云ったのは、聞こえない振りをしておいた。

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