帽子は徴。 ページ15
耳の端を少し紅くして此方を見ていた芥川さんが、不意に口を開いた。
「・・・そうだ、貴様に渡しておかねばならぬ物があるのだ」
彼は、少しぎこちなく踵を返して、奥にある収納を開けた。
銃か何かを渡されるのだろうか。間違えて発砲しちゃったりしたら如何しよう・・・。
密かに緊張しながら芥川さんを待っていると、彼は何か黒い物を持って此方に歩いて来た。
・・・銃?にしては、余り光沢がなくて小さい様な・・・
少し警戒気味に待っていると、私の前に立った芥川さんは、其の黒い物を私に手渡した。
其れは、黒いベールの付いた帽子だった。
ベールは、繊細なレース編みになっていて、華美では無いけれど綺麗で上品なデザインだ。
『・・・此れ、私に?』
「然り」
芥川さんは小さく顎を引いて頷いた。
「ポートマフィアでは、新人を勧誘した者が、責任を持って面倒を見る。其の証として、身に付ける品を1つ購って与える風習があるのだ」
芥川さんは、自身の黒外套の裾をぎゅっと握り締めて云った。
「髪を切り、容姿を変えたとはいえ、役者である貴様は、素顔を晒していればいずれ危険に曝されるだろう。其れを被っていれば、少しは顔を隠せる筈だ」
胸の奥に、じわじわと温かい物を感じた。
・・・ああ、何で彼は、こんなに優しいんだろう。
『・・・善いんですか?』
少し震えた語尾に、芥川さんは一瞬だけ驚いた様に目を見開いて、
_____微かに、ほんの少しだけ、口角を上げた。
「無論だ。其れが貴様のマフィア加入の徴だ。
・・・ようこそ、ポートマフィアへ」
彼の存外優しい表情に、胸をぎゅっと締め付けられる様な思いがした。
『はい』
俯いて返答をした後で、私は漸く、彼の表情に潜む切なさに気付いた。
彼は未だ黒外套の裾を握った侭だ。
『・・・貴方も、誰かに其れを貰ったんですか?』
彼の表情が、硬くなる。
「・・・ああ。或る方から頂いた。僕の師だ。・・・僕を捨て、居なくなられた」
彼の瞳が、一瞬黒い憎悪で鈍く耀いた。私は思わず息を飲む。
彼の優しさと冷たさの切り換わりに、息が詰まりそうになった。
「・・・安心せよ。僕は貴様を捨てぬ。
_____僕と同じ絶望は、せめて味わわさせぬ」
真っ直ぐに此方を見る黒い瞳を、私は帽子のベールで遮った。
『いえ、絶望する覚悟は出来ています』
私の微笑に、芥川さんは少し泣きそうな目をしていた。
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世河経(プロフ) - 文ストもアクタージュも大好きです!クロスオーバーしたかったんですが、「どうする……?」と思考停止状態で、「ふおおおそう来たか!」って驚愕しました!!!こんなに面白いのに何で星が赤くない……?(煩くてすみません。あと連コメごめんなさい) (2021年8月3日 12時) (レス) id: 58edaa5afd (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 天香さん多分文スト滅茶苦茶読み込んでいらっしゃいますよね?!要所要所に小説で見たような表現が……。すごいです!何課、本当に。、私が目指してるやつで。。。尊敬してます!! (2021年8月3日 12時) (レス) id: 58edaa5afd (このIDを非表示/違反報告)
☆天香☆ - ちづさん» は、発狂ですか!?御馳走様です!(錯乱)アクタージュと文ストのクロスオーバー全然無いですよね・・・僕もまだまだ未熟なので、お見苦しい点は多々あると思いますが、貴重なクロスオーバー作家(オイ)として頑張ります(笑) コメントありがとうございます! (2020年4月17日 22時) (レス) id: 63e3e21700 (このIDを非表示/違反報告)
ちづ - アクタージュも文ストもめちゃくちゃ好きで好きで!!!!!!この作品を見つけた時発狂しちゃいました笑応援してます!! (2020年4月17日 10時) (レス) id: d5e82ff792 (このIDを非表示/違反報告)
☆天香☆ - 蟹江さん» え・・・(歓喜の余り思考停止)こんな所まで来て下さるとは・・・!貴方のお言葉で完結まで突っ走る気力が湧いて来ました!!アクタージュはガチで神作なので是非ご一読をお勧めします!!貴方の為に更新頑張ります!!! (2020年4月16日 11時) (レス) id: 63e3e21700 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:☆天香☆ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/amaka00/
作成日時:2020年3月12日 13時