夜更しをする日は ページ3
「ほぅ…あー、さみぃ」
ため息さえ凍りそうな夜、こんな時間でも華やかなネオン街の光は輝くことを止めない。
昼の気温に怠けて薄着で出てきた俺は、季節の変わるのを見を持って感じていた。それにしても失敗した。そういえば、前にこんなことがあったときはあいつが…
「小太郎が…」
「俺がなんだ?」
ぬぅ、と後ろから手が伸びて来て、おれはそのままそいつにホールドされた。首元にはいつの間にかマフラーが巻かれている。
「っん゛?!び、びっくりした…脅かすなよ、小太郎」
「小太郎じゃない、ヅラだ!…じゃない桂だ。如何したんだ?こんな夜中に」
フフンと笑う声が耳元で聞こえる。彼の絹のような髪が触れこそばゆい
そうだ、前もこうやって一人でつきを眺めていたらこいつが現れて…
ーーーー
ーー
木の葉一枚落ちる音すら煩いような夜、凪いた水面には美しい月が写し出されていた。
銀時も、晋助も、小太郎も…
みんな俺よりあとに来たが、もれなく全員、真剣を手に戦場を駆け抜けている。そんな中、俺だけがまだ、真剣を持てずにいた。戦場で人を切れないなんて甘ったれたことを抜かすような余裕はない。そこにあるのは、生か死か、やるかやられるかだ。ふわり、風が頬を撫ぜる。ぼーっと見つめていた水面が揺れ、そこにあった美しい月は水と混ざるようにして歪んでしまった。
「はぁ…さみぃなぁ…」
「さみぃじゃない、桂だ。A、お前が夜更かしなんぞ珍しいではないか。こんな時間に如何したんだ?」
「っび、?!っくりした…こたろ…」
小さく微笑みながら、彼は座り込んだ俺を後ろから抱えるようにして座った。背中から感じる優しい温もりに、自分の心の内まで溶けて出ていってしまいそうだ。
「…なあ、A。俺は、お前が何を思い、何を抱えているのかなど分からん。ただ、お前はお前らしくいればいいさ。」
ゆるり、ゆるりと俺の頭を撫で続ける手の体温が、俺は熱くて仕方なかった。うるさい程の静寂に、もしかしたら俺の心の声が聞こえてしまったのかもしれない。
「…うん」
もう一度水面を見れば、そこにはボヤケた月がきれいに浮かんでいた。
ーーーー
ーー
「前もこうやって小太郎と月見たなって思い出しとった」
「あぁ、そんな日もあったな。前はもっと静かだったが」
ガヤガヤと賑やかな街を横目に、二人で笑う
ああ、ここはうるさ過ぎて、俺の心の声は聞こえないだろう。だからちゃんと、今度こそ
「ね、小太郎。ありがとう」
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作者名:狛石蜻牡 | 作成日時:2022年11月27日 22時