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成宮は我が物顔で、私を廊下まで引きずり出す。
「……わたしはない」
「……………じゃあ無理やり連れて行きまーす」
「ちょっ自分で歩ける!!」
頑なに動こうとしない私に、愛想を尽かしたのか、成宮に担ぎ上げられる。そこは、さすが野球部というか、ちんちくりんに見えて筋肉はあるらしい。
みんなの好奇の目線が痛い。
✳
ひと気のない廊下までつれてこられた。
「なに、話って」
「今度、俺たち青道高校に行って、試合するんだよね」
「それで?」
「Aちゃんに…」
「お断りします」
「まだ言ってないんだけど!」
「見に来てって言うんでしょ」
「分かってるなら話ははやい!」
「行かない」
「………ふーん」
「ま、Aちゃんがそれでいいならいいけど…」と、無表情で呟いたと思ったら、
大きなエナメルバッグから緑の冊子を取り出した。
「…え」と言う私に反応して、
成宮は性格の悪い笑みを浮かべる。
「そ、それ!私の単語帳!」
「昨日の放課後、俺が持ったままだったんだよね」
「返して」
「………見に来てくれたらかえす」
「脅してんの」
「人聞き悪いなぁ。物々交換じゃん」
「…わかった。見に行けばいいんだよね」
「来週末だからさ!忘れないでよ今の言葉!」
今度は一変、
カバンの中にわたしの単語帳をしまいながら、
嬉しそうにニコニコ笑っている。
多分、
この顔を世の女の子たちが見たらイチコロなんだろうな。
なんて思いながら彼の顔を凝視する。
「Aちゃん見過ぎ」
「…ごめん」
「……」
素直にあやまったことに驚いたのかなんなのか、
一瞬目を丸くすると、また嬉しそうに笑う。
「惚れ直した?」
「…ねえ」
「…無視?」
「私が見に行って、成宮にいいことがあるの?」
「……あ、うんまあ…」
「いいことっていうか…」と呟きながら、ぽりぽり顔をかく成宮。
小さく唸り声をあげながら、少しずつ成宮の頬が赤くなる。首を傾げる私を見る目も泳いでいる。
キャッチャーの先輩の声が聞こえてくる。
「鳴ー!」
「あ、雅さん」
「部活始まるからさっさとこい!」
「わかってるよぉー。じゃ、Aちゃんまた今度…」
走り去ろうとしたところで、「あ」と踵を返してこちらへくると、
ぐいと私の手首引っ張って引き寄せると、
ほっぺにちゅと口付ける。
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「じゃーね」
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(ありえないありえないありえない!)
「Aー。何ほっぺこすってんの」
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