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成宮の部屋から、彼の脱いだTシャツを片手に洗濯機を探して寮内を歩く。
確かに、休日なのにそんなに部員が歩いていないのは、みんな風邪をひいていて部屋にこもっているかららしかった。
「先輩!」
「…多田野くん」
「どうかしましたか?」
後ろからやってきた多田野くんに、「洗濯機を…」と言ってTシャツを見せれば、「こっちです」と言って私が歩いていた方向とは反対の方向に歩き始めた。
「多田野くんひとりでみんなの看病してるの?」
「…ひとりじゃないですけど、ほとんどそうですね…」
「大変だね…」
「先輩が来てくれたおかげでだいぶ楽になりましたよ」
苦笑いする多田野くんに、「あぁ…」と私も呆れて笑いが出る。
だいぶ、あのワガママ王子にこき使われてたんだろうな。なんて、考えなくても予想がつく。
洗濯機にTシャツを投げ込めば、多田野くんは数回瞬きをして私をじっと見つめる。
「なに」
「あ、いや、先輩、すぐに帰っちゃうと思ってたので…」
「………まあ一応…………
成宮もテスト頑張ってたし……
なにもしてあげないのもアレかなって……」
「………」
意外そうに見つめてくる多田野くんの視線に、
居心地が悪くて「ほんとははやく帰りたいけど!」と言えば、
後ろからタックルのように肩を組んでくる誰かの体重がのしかかる。
「よっ中野っち」
「ちょ、先輩!寝ててくださいって言ったでしょ!」
「…カルロスくん」
「なに、鳴のお見舞い?」
「無視しないで部屋戻ってください!」
「樹、おつかい。マガジン買ってきて」
「もー…」と呆れつつも小銭をつかんで買いに走る多田野くんはやっぱり素直な後輩だ。
相変わらず私の肩に手を回したままのカルロスくんに、私はじーっと見つめたまま疑問を口にする。
「カルロスくん…風邪?」
「…んーまあ。珍しく脱ぐ気にならない」
「それ普通のことだからね…ていうか………
陽子は………」
「あーそれなら…」
忘れていたわけじゃない。
私と成宮が行かなくても、まあ二人でデートを楽しんで貰えばいいかと思って放置していた陽子の存在。
目の前にカルロスくんが冷えピタを貼って立っているということは、陽子は今………
私のポケットの中で動く携帯を取り出すと、ちょうど陽子からの着信で、急いで通話ボタンを押した。
「陽子?」
『A〜…………助けて………』
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