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「はい、薬」
「飲ませて」
「…セクハラやめて」
「ケチだなぁ…」断固拒否すれば成宮は唇を尖らせながら水で薬を流し込む。
ごくごくと飲むたびに動く喉仏と、
少し汗ばんだ首元に、
こんなでも一応オトコノコなんだと意識してしまって思わず目をそらす。
「あ、着替えたほうがいいんじゃない」
「…………」
一応持参してきた文庫本に目を落として適当にいう私に、成宮は黙り込むと、私と文庫本の間に濡れたタオルを突き出す。
私がそれを受け取れば、ベッドの上に座ってそのままTシャツを脱ぎ始める。
「は!?ちょ」
止める暇もなく、あっという間に成宮は上半身ハダカになってしまって、私の方にくるんと背中を向けた。
「セクハラはやめ…」
「拭いて」
「え………」
「汗、拭いてよ」
目の前にある意外に筋肉質な背中にタオル片手にドギマギしている私を見越したように、ちらっとこちらを見てにやっと口角を上げる成宮。
なかなか動き出さない私に、「さーむーいー!はーやーくー!」と駄々を捏ね始める。
「自分で拭けば!」
「甘えていいって言ったじゃん」
「言ったけど…」
「それともなに、俺の背中に触るのすら照れちゃうくらい……意識しちゃってる?」
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聞かなくてもわかる。
こいつはからかっている。
私は成宮の背中にそっと手を置くと、背中に広がる汗を拭き始めた。
「Aちゃん…痛い」
「乾布摩擦!」
弟もお父さんもいるわけだから、男の人の背中は見慣れている。
でも成宮の背中は、見慣れた背中とは違う。筋肉質で、広くて…。
やっぱり高校野球のエースは違うのか。
ましてや、人の背中に触るのなんて…久しぶりだ。
「なんでいきなり甘え出したの…さっきまで恥ずかしがってたくせに…」
「なかなかない機会だし………ゴホ…」
「ちょ、はやく服着て…」と、一応畳まれてる洗濯物からTシャツをとって渡そうとすると、いきなり後ろから腕が回ってくる。
「……Aちゃん……」
「………っ」
後ろから耳元で囁くように言われてかぁあっと顔が熱くなる。なにより、私の背中に彼の素肌が触れて、思わず体の芯から熱くなる。
「……こういうときは、人肌で……あたためあうのが…痛い!」
「病人はおとなしく寝てて」
予想通りのことを言い出す成宮を、手に持っていた新しいTシャツで叩いて、離れさせると、彼が脱いだTシャツをつかんで足早に部屋を出た。
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「近すぎるってば………」
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