36. ページ36
.
「………」
意を決して、コンコンと扉をノックすれば、「入れば〜……」と気だるげな声が返ってくる。…多田野くんだと思っているのか。
私はドアノブを回して部屋の中を覗き込む。
「…成宮」
「…え?…………え!?Aちゃん!?」
ベッドの上で盛大に驚いて盛大に咳き込む成宮。
おでこには冷えピタが貼られて、上下スウェットで、いつもより髪がふにゃんとしている。
「………どうしたの?」
「お見舞い……と、後多田野くんに看病してって言われた」
「ゴホ…い、いいよ。うつしたら悪いし…」
ほんのり顔が赤いのは、熱のせいなのかなんなのか。
弱々しく言うと、ベッドから立ち上がって私をぐいぐいと部屋の外に追い出す。
…せっかく来たのになんだそれ。なんだかかちーんときてしまって、無理やりドアを開けて中に入る。
「ちょ、Aちゃん…」
ぽかーんと突っ立っている成宮をベッドの方に押す。
「いいから病人は寝てて」
「…はい…」
.
小さく成宮の咳の音が響く部屋で、私はお見舞いセットを探りながら彼の部屋を見渡す。
小ざっぱりしているけど、脱ぎっぱなしの服がそのへんに置いてあったり、週刊ベースボールが平積みしてあったり、入ったことはないけど男子高校生の部屋といった感じだ。
なぜか結局成宮は布団に潜り込んでしまっていて、私は呆れたようにそのこんもり膨らんだ布団を見つめる。
「…もっと喜ぶかと思ってたんだけど」
「いや!嬉しいんだけどさ!」
少し小さくつぶやいた私の声に過剰に反応してバッと布団の中から飛び出してくる。私と目があうと、まくらを抱えて俯いて小さく呟く。
「…すっげぇかっこ悪りぃなあと思って。俺」
「別に風邪くらい誰でも…」
「そりゃ引くけど!この俺が!しかもデート当日とか……カッコ悪すぎて…」
「……………」
「…しかも、好きな子の前でさぁ…」
ださすぎ…としょんぼりしている成宮に、私はベッドの脇に腰をかける。
こんなに弱った成宮は、初めて見たかもしれない。
成宮は常に、初めて出会った時から自意識過剰で、
………良いように言えば自信たっぷりで。
その成宮が顔を赤くして枕に顔を埋めているのが、なんだか…悔しいけど可愛くて、私は思わず笑う。
「え…そこで笑う?」
「…………いいから、病人なんだからさ…今くらいかっこつけずに甘えればいいんじゃない?」
.
645人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「アニメ」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ