【五条悟】ブラックスマイル 2

64. 振り払えない ページ29

【貴女side】




恵が立ち去った後、後ろを向く。



木から少し白い髪が見えている。





感謝、してる。

昔からずっと、彼は私が1人にならないように
毎朝一緒にご飯を食べてくれていた。

いつも1人で本を読んでいても
話しかけてくれた。


4人で行った花火の日も
変な人に絡まれた私を助けてくれたっけ。


ごじょレンジャー…さとレンジャー？
もうどちらか覚えていないけれど。

そんな事を言って笑わせてくれた。


過保護なくらい私を気にかけてくれていた。
きっとそれは彼の善意だ。


だけど…少しだけ、しんどかったの。

硝子や夏油くんに対する彼は生き生きしてて。
私の前だと気を遣わせてしまっているようで。


どうでもいい、なんて言っておきながら
そんな事を思っていたのだという事に気付いた

遅すぎるし面倒くさすぎると、我ながら思う。



どうでも良くはない。良いはずがなかった。

私にとって彼は…良くも悪くも
他の誰の立場にも置き換えられない人だ。

だけど、どう接すればいいのか分からない。



1番今の気持ちに近い答えだと思う。





「…起きてるよ、さっきから」



振り返ると、青い目がこちらをとらえていた。


『…おはよう』

「おはよ」



五条くんは立ち上がって伸びをすると
座ったままの私の目の前にしゃがみ込んだ。



「言いたいことあるんだけど」

『何？』

「僕、Aの前だとキャラ違うんだよね。

昔から他の奴にはオマエとか言うけど
Aには絶対に言わないし。

知ってた？」


『…うん。知ってたよ』

「だろうね。だからもうやめようと思った。
君に好かれる為に無理するのは辞めようって。

…でも、出来ないんだ。そう簡単にはね。



だってずっと僕は君とそう関わってきたし
急に変えるなんて出来ない。

無意識のうちに、僕は無理してたから。


君に聞きたい事はまだある。

だけどまだ聞けない。
今のこの関係ならきっと意味が無いから。

だから……頑張ろう、一緒に。
少しずつ変わろう。僕も、君も」



差し出された大きな手。

その上に手を置くと、彼は優しく笑った。


温かい。懐かしい。
あの人をふと思い出してしまった。



私に待つ未来は変わらない。
1週間後には彼らと離れなければならない。



なのにどこか、安心してしまった。


目先の安心感のために手に触れてしまった事を
少し後悔した。





また、私は貴方を傷つける。

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