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「いやいやいやいやいやいや!冨岡さんが私を!?好き!?!?いや、そんなわけないでしょ」
「ある」
ああ、血鬼術は解けたが、その後遺症が残っているのだろうと勝手に納得して、早々にAは冨岡との会話を放棄する。それを許さず、冨岡は両手で相手の左右の手を包み、一心に見つめる。
「…ないよ、有り得ない!冨岡さんが私みたいな奴を好きになるなんて、そんな」
「顔が好きだ」
中々信じようとしない相手に痺れを切らし、冨岡は好きなところを上げていくことにした。だが、余りに言葉足らずだ。
顔、ではなく万華鏡のようにクルクル変わる表情、と本当は伝えたかったのに。
「手や腕が好きだ」
守りたいものの為にタコが出来た掌や、庇護対象を優しく包み込む腕が、Aの人柄が表れていて好きだ、と言いたかった。
「死にかけるところも好きだ」
柱ではあるが最強には遠い力量でありながら、その身を当たり前のように人の為に投げ出し、救うその優しさが好きなのだ。
言葉足らずにも程がある告白を、言い切ったとばかりに冨岡は口を閉ざした。側から見れば、飛んでもない性癖の持ち主である。
冨岡の愛は殆ど言葉にはなされておらず、Aに伝わるのなど精々十分の一程度だ。とても充分とは言えない。
だが、Aは黒い髪に埋もれた耳が真っ赤なことに気がついた。それは、ずっと前から冨岡を目で追ってきた彼女でも、見たことがない反応だった。
故に彼女は確信する。冨岡が自分のことを本気で好きなのだと。その途端、気恥ずかしさや虚構感から、走り出したい衝動に襲われた。
それを冨岡は後ろから抱きしめ、その耳元で更に愛を囁く。
「愛してる」
Aはまた否定しようとした。だが、理解しているのに、その感情を無視するなど出来るはずがなかった。
口をついたのは、自身の素直な気持ち。
「私も…好き」
二人の鼓動が服を隔てて溶け合う。早鐘のように鳴り響く鼓動は、お互いの緊張を伝え合った。冨岡は腕の中でAの体の方向を変え、こちらに向かせる。
「A…」
「…夢、じゃないよね」
そう心配するAを否定するように、冨岡はその頬に優しく手を滑らせた。
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もみじ - めちゃめちゃ面白かったです!! (2022年8月1日 19時) (レス) @page30 id: 32f65dbc25 (このIDを非表示/違反報告)
ハッシュタグ(プロフ) - ななしさん» お読みいただきありがとうございます。今でも反応をいただいており、私としてもお気に入りの作品ですので、そう言っていただけて嬉しい限りです。もしまた機会があれば、読んでいただけましたら幸いです。 (2022年4月9日 0時) (レス) id: bcf3124c84 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - 面白くて一気読みしました!語彙力が凄くて羨ましいです...!シチュエーションも神でした!これからも応援しています!! (2022年4月2日 17時) (レス) id: 05cc864757 (このIDを非表示/違反報告)
ハッシュタグ(プロフ) - 水城舞梨亜さん» 喜んでいただけて良かったです!リクエスト本当にありがとうございました…! (2020年10月22日 11時) (レス) id: bcf3124c84 (このIDを非表示/違反報告)
水城舞梨亜(プロフ) - いいいい伊黒さんかっこいい!!!です!\(^o^)/伊黒さんは、私の推しなんですが、こんなにかっこよく書いていただけて嬉しいです!!(*´ω`*)後、夢主ちゃんがかわそう…でもなんかすごいです!(語彙力)感情が無いようであって。凄く、本人にあってると思います! (2020年10月22日 8時) (レス) id: 0e4689ecab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハッシュタグ | 作成日時:2019年11月30日 19時