12話 ページ12
.
あの日から、僕はAの記憶を取り戻す手伝いをはじめた。
まずはただひたすら、僕の知っているAがどんな女の子なのかを話してあげた。
ひたむきで努力家だということ。
よく笑うこと。
勉強は得意だったけど運動が大嫌いで、マラソン大会の日にバックレたいと駄々を捏ねたこと。
嘘をつく時すぐに目が泳ぐこと。
中学の頃は吹奏楽部に所属して副部長として活躍していたこと。
絵を描くのがほんのちょびっと苦手なこと。
ほんの些細なことですぐに機嫌を直すこと。
Aは自分のことなのにひとつひとつを聞く度に物珍しい話を聞いているような表情をしていた。それがまた可愛らしかった。
マラソン大会の話をした時は気恥しそうに俯いていたのが面白かった。思わず吹き出してしまったら笑わないでよ!と怒られてしまった。
大学生になって彼女は幾分か大人になった。でもやっぱり昔と変わらず優しい笑顔で俺の話を聞いてくれた。
こうしていると、ああ、やっぱりAなんだなぁと痛感させられた。
記憶があるかないかなんて関係なく、AはAなんだと。
「……そう言えば、聞きたいことがあったの。」
「聞きたいこと?」
先程まで冗談めかしく笑っていたAは少し神妙な面持ちになった。
ぎゅっと白いスカートの裾を握り締めていた。
「私と初めて…大学で初めて会った時、私のこと“蘭堂A”って言ってたよね?蘭堂って確か、私の…父方の苗字なの。
…でも、ね。私のお母さんはお父さんとは私の小さい頃に離婚したって聞いてたから私が“蘭堂A”で通っていたなら話の辻褄が合わなくて…。」
「え!?」
離婚…?!
持っていた参考書を思わず落としそうになってしまった。
だって、あんなに仲の良さそうな家族だったじゃないか。君はずっとお父さんとお母さんと暮らしていたじゃないか。
あまりにも、おかしい。
161人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白霞(プロフ) - いちごアメさん» 応援のお言葉ありがとうございます。面白いとも言って頂けて嬉しい限りですございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月19日 17時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
いちごアメ - とっても面白いです!!これからも頑張ってください (2020年8月18日 21時) (レス) id: 77a7bd0b14 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - つぶやき星のつぶやき女さん» そんな風に言って頂けて光栄の極みでございます!素晴らしい作品だなんて畏れ多い…!最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月18日 12時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
つぶやき星のつぶやき女 - す、素晴らしい!泣きました。とても面白い、悲しい?ような気がして面白かったです。(伝わらないような気がする。語彙力無くて、すいません!)とにかく素晴らしい作品でした。お疲れ様でした。 (2020年8月17日 21時) (レス) id: 9c9562d775 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - くれーぷさん» そのように言って頂けて嬉しい限りです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2020年7月28日 19時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月26日 0時