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「ほら。ブラックでよかったっけ?」


俺がAに差し出したのはアイスコーヒーだった。


「はい。ありがとうございます」


一応落ち着いたといえど、Aの目は腫れぼったくて鼻は赤くなっている。


彼女は、俺がいつも座っている座椅子に体育すわりで小さく座っていて、鼻をすん、とすすった。


全く、彼女はいつも自分の言いたいことを我慢する。


その度に、自分を頼ってくれまいかと思うものの、素直に言葉に出せたのはたったの1度だけだ。


いつの間にこいつを好きになったのか、きっかけなんて覚えていない。


気づいたら、こいつの隣は俺の場所で、他の誰かに取られたくないと思うようになっていた。


これが恋と呼ぶのか、それとも気に入ったおもちゃと同じような独占欲に含まれるのかは昨日までわからなかったが、幸か不幸か、それを知ったのはあの酔っ払いの迷惑客のおかげだった。


あのとき、考えるよりも先に体が動いていた。


彼女が泣きそうになっているのを見て、マグマのようなものが全身を駆け巡った。


いやらしい手で、目で、彼女を見られるのが、たまらなく不快だった。


「惚れているのか」と聞かれたとき、「だったらなんだよ」と咄嗟に飛び出した言葉は、今まで自分でもはっきりと気づかずにいた、俺の本音に違いなかった。


俺は横にあった自分のベットに腰かけて、ちびちびコーヒーを飲むAを盗み見た。


きっとAは、俺がそんな風にどろどろした下心を持って助けたなんて、思いもしないだろう。


俺自身、自分自身に驚いているくらいだ。


Aの笑った顔や、眠そうなあくびや、図書館でテスト勉強をしている時の真剣な目、温かなアルト、、、。


そういうふとした仕草の一つ一つが、俺を惹きつけてやまない。


自分に自信がなくて引っ込み思案なところも、バイトの時だけは元気に動き回っているところも、とにかく全部ひっくるめて、俺には彼女しか考えられなかった。


これが恋だと気づかずにいたこと方が、今となっては不思議なくらいだった。


それは多分、Aがそばにいることがあまりにも当たり前すぎたせいだろう。


でも、と俺は思う。


これは俺の中だけで始まり、そして終わってしまうかもしれない。




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りひと(プロフ) - たまさん» たま様/コメントありがとうございます!またコメントをいただけて嬉しいです!続編のほうも、引き続きよろしくお願いいたします! (2019年12月24日 11時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
たま(プロフ) - こんにちは!グッドイブニング・トウキョウから引き続きずっと読んでいます。坂田さんsideも入れて頂きありがとうございました。これからの逆襲編も楽しみですし、また坂田さんとくっつくのも楽しみにしております。これからも応援しております。 (2019年12月24日 11時) (レス) id: a928baf79e (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - shioriさん» shiori様/コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです!今後も楽しんで読んでいただけるよう努めて参りますので、応援のほどよろしくお願いいたします! (2019年12月22日 3時) (レス) id: 643f7a330d (このIDを非表示/違反報告)
shiori(プロフ) - 初コメ失礼します!浦田さんのキャラめちゃくちゃいいですね!元々惚れてますけど余計に惚れますね!応援してます!更新頑張ってください! (2019年12月22日 1時) (レス) id: f06d85eb8e (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - ゆずの実さん» ゆずの実様/コメントありがとうございます!どんどん更新して参りますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします! (2019年12月21日 13時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りひと | 作成日時:2019年12月13日 23時

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