グットイブニング・トウキョウ【あほの坂田】 (ページ7)

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「ほんとにいる」

次の朝、いつものようにバスがきた。
白地に緑のラインが入ったバスで、西が丘高校前まで片道240円だ。

バスに乗り込むと、きょろきょろとあたりをみまわす。奥の席に赤い頭が見えた。

「Aさん、おはよ」

「おはよう、坂田くん」

いつもより30分も早く起きたわ！と言いながらあくびをこぼしている。

通勤時間だけど、私たちの所は始発点付近なので、バス内の人はまばらだ。

「となり、座ろ!」

勧められるまま彼の隣におずおずと座る

「今日、英語の小テストだね」

宿題やってきた？と坂田くんに声をかけると、彼は石像のようにピシリと固まった。

「…え、今日やったっけ？」

だんだんと彼の顔が泣きそうになる。

「うん…もしかして、忘れてた？」

「…やばい、どないしよ。俺、英語苦手だし宿題もやってない！」

補講確定や！と頭を抱えている。

英語は一限だ。やってないのはかなりまずい。

とりあえず宿題だけでも、と彼はあわててプリントをかばんから引っ張り出した。

カバンに突っ込んだままだったのか、プリントはところどころ折れたあとがある。

「Aさん、宿題のプリント見せて!!」

おねがい!!と両手を合わせて必死の様子だ。

「わ、私のでよかったら…」

おずおずと、ファイルに入れていたプリントを彼に差し出す。

「ほんま!？ありがとう!!今度なにかお礼する！」

ガリガリと必死にプリントに書き始めた。

「小テストの範囲って、このプリントだけやんな？」

「うん。中間テストの範囲でもあるからって先生が言ってた」

今回のテスト範囲は文型がメインだ。
割と暗記要素が強いので、覚えたもん勝ちのところがあるのが救いと言ったところだろうか。

「あー！もうわからん!!なんでこれになるん？」

プリントを写し終わった坂田くんが、テスト対策にとプリントとにらめっこしている。

「ここは、It is＋形容詞＋that節の形だから……」

「え、これそういうこと？」

2人で勉強していたら30分なんてあっという間だった。

高校前のアナウンスが聞こえて、私達は慌ててバスを降りた。

「Aさんいてくれて助かったわ！テストがんばろな！」

「う、うん。お手伝いできたならよかった」

じゃあまた！といって彼は教室に入り仲のいい友達のところへ行ってしまった。

そこでようやく私はふう、と長いため息をついて、自分が思っていた以上に緊張していたことを知ったのだった。